鈴虫の音に驚くな秋
2019-08-27
寝床に聞こえる鈴虫の音冷房も入れずに研究室で過ごす
むしろこれで正常なのかもしれぬ
寝床に入り電灯を消すと、外から鈴虫の鳴く音が聞こえて来た。そうたくさんいるわけではない、わずか1匹かと思うほどか細い声ながら、秋の気分を存分に感じさせた。これまでの人生を歩んで来た中で、今が一番静かな環境で就寝できていると思う。そのほぼ音がないほどの世界に響く、ささやかな生命力には心を惹きつける落ち着きがある。宮崎市でも市内中心部のマンションではなく、郊外の自然多き地域に住んでいる意味はこんなところにも見出せる。こうして早朝に小欄を書いていても、窓からは僅かな潮騒が聞こえ、幾多もの種類の早起き鳥たちの声が聞こえて来る。鳩や雀に鴉など街にもいる鳥もいるが、そうでない鳴き声を楽しめることもある。未だ聞き分けられないのが残念であるほどだ。
生きていて聴覚をどれほどに活かしているのか、と思うことがある。今年の五月発行の『現代短歌・南の会 梁』に「牧水の耳」というタイトルの評論を掲載いただいたが、牧水は旅をしつつ様々な音に作歌の取材をしていたようだ。聴覚と視覚はやがて融合し、「日の光きこゆ」といった短歌表現に至る。歩く途次では頭上で啼く鳥たちを友として、その姿に自らを重ねる。自らの身体そのものが自然の一部であると自覚し、五感をフル動員して自らが置かれている境涯を察知する。こうした身体性は、日向市東郷町坪谷という山深い風光明媚な渓谷で生まれ育ったからであろう。延岡から東京と学校を進むにつれて都会に出て行った牧水の耳は、自ずと自然が「聞こえる」環境を旅に求めた。そんな牧水の聴覚に由来する韻律豊かな短歌について、来月17日には伊藤一彦先生との対談が予定されている。
9月17日(火)牧水祭(牧水の命日)
宮崎県日向市東郷町坪谷の牧水生家前歌碑及びふるさとの家にて
午前9時30分より歌碑祭
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