現代短歌は何を求めていくかー第9回牧水短歌甲子園観戦記
2019-08-19
親(シンパシー)「和(均衡ある調合)」異(ワンダー)比喩の質感をどれほど追い求められるか
歌を創るとは丁寧に生きるということ
第9回牧水短歌甲子園が、日向市で開催され2日目の準決勝・決勝を観戦した。前日の1次リーグから観戦したいという思いを募らせる熱戦の3試合で、何首も胸が熱くなる歌が出詠された。野球の甲子園が「大人」に忘れていたものを思い出させてくれるように、この短歌における青春の闘いも歌創りの原点たる問題を考えさせる要素に溢れていた。勝敗のみにこだわることなく、相手の短歌を敬って丁寧に解釈した上で質問して読みを深める。一対一で勝敗が計上されていくのではなく、双方の対話を経たのちに総合的に判定が下されるのも「牧水甲子園」の大きな特長であると思われる。舌戦の中において相手の短歌に「推敲案」を示すチームも多く、掲出歌との相対化において、当該歌の「過去(創作過程)」や「未来(可能性)」が見えてくる。観戦している身としても、解釈を深め「赤白」の判定を自らも理由を付けて決めておくと、審査員の判定とコメントとの上で相対化した読みが浮かび上がり、誠に勉強になる機会となる。
大会は宮崎県立宮崎西高等学校の2連覇で幕を閉じたが、決勝で相まみえた石川県立金沢錦丘高等学校の健闘も素晴らしいものがあった。準決勝・決勝の3試合がすべてそうであったが、審査員3名の判定は「2対1」。それほど実力は伯仲し、審査員が一方を「勝者」とすることに深い葛藤を抱かせた大会であった。決勝終了後の伊藤一彦審査委員長と審査員との座談でも、俵万智さんから「3人の審査員の判定が絶対というわけではない」というコメントが、複数回繰り返された。その上で伊藤先生から「審査員おのおのが短歌観を問われている」のだと言い、まさに「現代短歌が何を求めているかが問われている」という発言があった。唯一「三十一文字」という「形式」がきまりであるだけで、他に何ら約束事のない「短歌」はこの世紀をどう生きていくのか?「形式」があるから「型破り」もできて、共感性のみでは読者の心に引っ掛からない。「AはBに似ている」というその「A」と「B」の距離が近過ぎず遠過ぎない匙加減の絶妙さが求められるという具体的な発言も俵さんから為された。正直言って、野球の甲子園で時折見かけるような、無謀な強制による自己犠牲的なチーム主義など微塵も見られず、短歌に情熱ある大人を啓発してくれるような、爽やかさばかりがあるのは、やはり「個」を尊重する短歌という1300年の文芸の恩恵ではないかと思うのである。
これぞ国語教育で実践すべきこと
「短歌」で議論することで「論理」が身近に
宮崎に集まるこころ豊かな高校生たちの笑顔に感謝。
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