歌う(詠う)ことで超えていけ
2019-05-03
「悲しみや憂いがある中、ようやく訪れた春を喜ぶ心が歌われている」
(宮崎日日新聞「令和と万葉集 座談会」伊藤一彦先生のコメントより)
好天となった宮崎であったが外出予定もなく、一日中家の書斎で文字に向き合っていた。これもまた求めるべき休日の過ごし方であろう。宮崎日日新聞には、冒頭に記した伊藤一彦先生の発言を含む座談会記事が全面掲載されて眼を惹いた。宮崎県内唯一ともいえる古典文学研究者仲間の県立看護大・大館真晴氏が『万葉集』を「多様性」のキーワードで切り口を作り、昨夏の「高校生万葉短歌バトル」で優勝した宮崎西高校の上村萌々香さんとの世代を超えた鼎談であることにも大きな意義が見えた。大館氏のいう「多様性」を実感として語るには、『万葉』の表現と現代の多様な立場との、またその捉え方を様々な世代にて交流する「対話性」も自ずと必要になる。「日本一の短歌県」を目指す宮崎でこそ、文学『万葉集』に関して世代や立場を超えた「対話」を様々な場で行うべきであろう。そして伊藤一彦先生の「つらいこと、悲しいことがあっても人生を肯定的に生きる。みなそれぞれ大変なものを抱えているにもかかわらず、梅花の宴をするところが素晴らしい。」という発言に、前向きに「楽天的」な人生への全肯定を読み取ることができる。その楽天的全肯定へと作用させるものが「和歌」を詠むことであると、その社会的効用も垣間見える内容である。
『万葉集』と牧水との関係については、牧水研究会でご一緒している田中教子氏の『牧水研究』最新号(2018年12月刊行)での研究成果に基づくコメントが紹介されていた。「石走る垂水の上のさわらびの萌え出づる春になりにけるかも」(志貴皇子・巻8・1418)の著名な歌について、牧水が愛読した『類題万葉短歌全集』(千勝義重著)に丸印が付けられている。「眼前に早蕨を見る実感がある。現実を直写することで実感が感じられる点を牧水は評価した。」と田中氏はコメントし、近代歌人としての牧水と『万葉』との対話性を浮き彫りにする内容であった。さらには旅の歌人である牧水と『万葉』歌との類似を指摘した島田修三氏(牧水賞受賞歌人)のコメント、また牧水は大伴旅人の「讃酒歌」を好み長男を「旅人」と名付けたことなど、自然・旅・酒のキーワードで牧水と『万葉』は対話できることが詳細に記されていた。
これぞ「短歌県」の地元紙である
さらに歌集や読みかけの本を読了
もちろん何首かの歌を詠み自らの心の垣根を超えていく。
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