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春は牧水賞からー第23回若山牧水賞授章式「穂村弘さん受賞」

2019-02-03
「シンパシーとワンダー」
穂村弘さん 俵万智さん
共感と驚愕の数日間

1月晦日、牧水賞授授賞式が宮崎市内のホテルで挙行された。ありがたくも県からご招待いただき、授賞式・祝賀会、さらには宮崎を拠点とする短歌会主催のお祝いの会まで参加し、あらためて受賞者・穂村弘さんの短歌の魅力を味わった。選考委員を代表して伊藤一彦先生のご挨拶では、穂村さんと同年齢の俵万智さんと比較し、「俵さん シンパシーの要素が多いが、穂村さん ワンダーがいつしかシンパシーに」と評した。「シンパシーとワンダー」は、穂村さんご自身が短歌を評する際の大変わかりやすい術語であるが、ご挨拶後の機会において伊藤先生は、「実はよく読むと俵さんの歌にもワンダーがたくさんある」とおっしゃっていた。

その後、まずは選考委員・佐佐木幸綱先生の選考評。「読者は驚かされて楽しむ、短歌を楽しいものにするモチーフがある。」と云う。さらに時筆すべき指摘は、明治以降「教育の場での短歌の扱われ方と歌壇」の問題。所謂「清く正しく美しく」と自然に思わされて、「読者サービスなどとんでもない」という風潮が歌壇に蔓延したのだと云う。『万葉集』巻16にも「ふざけた短歌」はあり、穂村さんの歌は「読者が迷う楽しみ」があるのだというのだ。「学校教育の束縛から、歌人がふざけた歌を作らなくなっていた。」ことから解放するごとき、穂村さんの歌の「楽しさ」をその魅力として説かれた。

続いて、高野公彦先生の選考評。「昭和の終わり20年+平成の30年」を振り返る歌集と位置づけ、「水筒に磁石・証書の筒・味の素・地ベタリアン」などの素材の扱いに注目する。様々な種類のビールが出現したことを「ビールの幽霊」などと詠うのは、「批判はしないが受け容れない」という姿勢が読めて秀逸なのだと云う。「謎かけ的に詠む、すぐにはわからない歌、クイズを解く楽しみ」などの要素が穂村さんの歌にはあって、「ミサイルを体温計」になどの比喩のあり方なども驚きがあるとの指摘があった。

授賞式の最後は、穂村さん自身のご挨拶。牧水と啄木を比較して簡潔かつ奥深く述べたスピーチは、受賞歌集の「あとがき」にあるような〈穂村宇宙〉がそこにあった。啄木の「働けど」や「友がみな」などの歌は、「100年後の人も同じく感じる」ものである。だが、牧水の「白鳥は」「幾山河」「海底に」などの歌は、「誰も考えないワンダー」が詠めるのだと云う。その「ワンダー」が「文体に乗ると自分もそうではないかと思い始め、「『あくがれ』の遠い場所」へと誘われるのが、牧水の魅力であると云う。「金持ちになれば啄木への共感は消えるが、牧水の歌は『永遠の世界』である。」という啄木・牧水比較論を挨拶に組み込むあたりは、さすがに穂村さんの真骨頂を見た気がした。「『水中翼船は燃えているのか』を問いかけたかった歌集」であるとのまとめ。穂村さんご自身の「ワンダー」もやはり牧水同様に永遠なのである。

あらためて牧水を読み直し深めたと穂村さん
奥様からの受賞の贈り物は、牧水の『別離』と『みなかみ』の歌集とか
短歌の奥深い一夜が明けて、宮崎には球春も訪れた。


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