牧水の聞こゆる谷川ー「みなかみ町牧水ゆかりの地巡り」
2018-11-19
「谷川と名にこそ負へれこの村に聞こゆるはただ谷川ばかり」(若山牧水第十三歌集『くろ土』より)
牧水が「みなかみ」で聞いたもの
若山牧水顕彰全国大会みなかみ大会2日目。「みなかみ町」にある牧水ゆかりの地、主に歌碑を巡り歩く半日のツアーであった。牧水は生涯に二度「みなかみ」訪れており、大正7年『静かなる旅をゆきつゝ』、大正11年『みなかみ紀行』という紀行文にその足跡を遺している。今回は「みなかみ」への滞在が長かった前者の紀行文に記された、ゆかりの地を巡るという内容であった。中でも「谷川村」やそこへと向かう道すがらの歌作には、紀行文と併せて読むと実に面白い発見がありそうだ。僕が個人的に興味を惹かれたのは、牧水の「耳」である。この渓谷の地に来て谷川のせせらぎの音を、常に意識的に捉えている。また「ちちいぴいぴいとわれの真うへに来て啼ける落葉が枝の鳥よなほ啼け」などの鳥の啼き声を擬音語で捉えた歌なども含め、その聴覚が実に研ぎ澄まされている印象だ。ツアーの最初に訪れた谷川富士浅間神社では歌碑に献酒も行われたが、その神社の奥に連なる路(みち)には牧水が歩いた当時の面影があり、そんな路でさぞ耳を澄ませば面白い発見があったことだろう。「わが行くは山の窪なるひとつ路冬日ひかりて氷りたる路」(浅間神社歌碑の歌)
この谷川温泉で牧水が宿泊したのが「金盛館」という旅館である。実は僕は20代で現職中高教員だった頃、職場の仲間とこの宿に宿泊したことがある。ロビーにある妙に踊るような文字の短歌を観て、当時は何を感じていたのであろうか。その際に、妙に谷川温泉が気に入って2度目も他の旅館であったが訪れている。その当時から僕は牧水に引き寄せられていたのだろうか?その後、人生の様々な渓谷を超えていま僕は牧水研究をしている。この谷川温泉を牧水が訪れる前に行ったのが「湯檜曽」という地域、不思議なことにこの地の旅館にも僕は30代で宿泊したことがある。その地へ行くと94歳になるという色艶のよい老人が、僕らツアーの前にいらっしゃった。大正13年生まれのそのご老人は、牧水が宿泊しようとして断念した「福田屋」という旅館のことが記憶にあると云う。ツアー主催の町の方が用意した手持ち拡声機を使用し、その当時はこうだったと元気に我々に話してくれた。記憶がある方の生のことばは、実に臨場感があるものだ。その今はなき「福田屋」の対応に宿泊を諦めた牧水は、前述した谷川温泉まで無理を押して強行に夕暮れ迫る道を歩き尽くしたと云う。
「行き行くと冬日の原にたちとまり耳をすませば日の光きこゆ」
牧水には「日の光」が自然と聞こえて来たのである。
かくして、牧水への様々な縁と問題意識が新たに湧き立つ2日間であった。
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