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青春を取り戻すー出逢いたき「ロミオ洋品店」

2018-11-09
「ロミオ洋品店春服の青年像下半身無し***さらば青春」
(塚本邦雄『日本人靈歌』より)
愛誦性と衝撃力と

一度読んだら忘れられなくなる短歌がある。たぶん冒頭に記した一首は、多くの方がそのように思う一首であろう。今朝も目覚めると脳裏にこの歌が響き渡り、朝になって残っているものを記す趣旨の小欄で扱うことになった。歌には韻律との関係によるいくつかの意味のまとまりがあるが、そのどれもが心の中で執拗な声となってこの歌を起ち上げている感覚である。「ロミオ洋品店」と云う地方の街にありそうながら、架空の想像を刺激する象徴的固有名詞。「春服(しゅんぷく)」という音読みの響きと「青年像下半身」という漢語三文字の連続を「無し」(これも漢字であることが重要)で引き取り上半身のみという皮肉を際立てる。そして「***」で示される批判的態度。『塚本邦雄』(島内景二氏・コレクション日本歌人選019 笠間書院2011)では一首を、「青年の荒々しさを去勢し、飼い殺しにする戦後文化が批判されている。」と評されている。

最近は毎朝、小欄を書き終えると自宅から大学構内のグランドまでウォーキングをする習慣がついた。陸上トラックの外周を昇り来る陽を見上げながらゆっくりと歩む。陸上部の学生であろうか、早朝ながら自主的にトラックを走る青年がいる朝がある。彼らがジョギング程度の時はあまり感じないが、速度を上げて疾走するとその後姿を見送りつつ大腿二頭筋あたりの逞しさにある種の羨望の眼差しを注ぐことになる。こちらはただひたすらゆっくりと、今の年代なりの歩みを進めている。青年はその短パンから露出した筋肉を誇るかのように、容赦なくトラックの最も外周を歩む僕を抜き去る。だがそれは羨望であるとともに、僕の一歩一歩を支える起動力でもある。大学教員である以上、常に大学生の青春を身近に感じるという特権がある。旧友からは「それがお前の若さの秘密か」と羨ましがられる。この日も県教育事務所主催のワークショップに参加し、ゼミ生たちにデモンストレーションを行ってもらった。その生き生きとした瑞々しさ、あらためて僕自身も「青春」であるような錯覚に陥ることがある。皮肉にも塚本の批判は的中し、「草食系」や「さとり系」といった「去勢」された若者の時代になった。だからこそである、僕らの世代が諦めずに今の学生たちとともに「青春」を逞しく生きるべきではないかという思いを新たにするのである。

島内氏の著書によれば
「六十八歳から七十八歳まで塚本邦雄は、『近畿大学教授』であった。」と紹介されている。
「さらば青春」されど「いまが青春」なのである。


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