「割く新月の香のたちばなを」ー爽快な怒り
2018-11-07
「帝王のかく閑かなる怒りもて割く新月の香のたちばなを」(塚本邦雄 第六歌集『感幻楽』より)
「美の拉致」へと向かう道
先週末の心の花宮崎歌会にて、島内景二氏が師である塚本邦雄に関してお話された。その内容の個々の事象が大変気になって、島内氏の御高著『塚本邦雄』(コレクション日本歌人選019 笠間書院2011)を読んでいる。本シリーズは古典和歌の歌人を扱ったものが大半で、和歌文学会で旧知の研究者が執筆しているものも多く、どちらかというとその類を読むことが常であった。その中にあって『塚本邦雄』は格別な内容であって、読み始めるとすぐさま虜になり研究室で貪るように読んだ。一つに塚本の歌の鮮烈さ巧みさ奥深さによるものであるが、同時に島内氏の渾身の鑑賞と解説があまりにもこころに響いた。正直言ってこのシリーズでこのような胸のときめきを覚えたのは、『塚本邦雄』が初めてである。ぜひご一読いただきたい好著である。
冒頭に挙げた歌は、後鳥羽院に寄せた連作「菊花變」の中の一首。奇しくも「国文学史」の講義で『新古今集』時代を扱い後鳥羽院に触れていた折しも、院の美学が存分に詰まったこの歌を読んでしばらく身動きができなくなってしまった。「香のたちばな」は古典和歌では周知のように「五月待つ花橘の香をかげば昔の人の袖の香ぞする」(『古今集』読み人知らず)として、「恋の記憶」を蘇らせるものであるが、島内氏の解説によれば「今は失われた日本文化」であると云う。後鳥羽院は「和歌という文化の力で、天皇親政の古代文化を復活」させようとしていたのであり、その結果「悪しき武家勢力を一掃しようとして、敗れ去った。」ことが「新月の香のたちばな」に象徴されているという読みである。「後鳥羽院の閑かな怒りは、塚本邦雄の怒りでもあった。」という塚本の後鳥羽院敬慕と同化への鑑賞が、古典和歌と近現代短歌を研究するものとして、胸の奥底に響き渡るのである。
「かく」「怒り」「香の」カ行音
「閑か」「割く」「新月」サ行音
「帝王」「たちばな」タ行音 響きもまたこの上なく巧みである。
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