没後90年「牧水をうたう」ー短歌オペラ「若山牧水 海の声」
2018-09-17
第1幕「愛と苦悩」第2幕「苦楽を共に」
牧水の愛した女性と人生がオペラに
「縁」とは、誠に数奇なものである。人が生きるということは、常に意識できない何らかの繋がりの中にあるのかもしれない。その繋がりが、人と人との縁によって人生のどこかで表面に浮き上がってくる。その気運に気づくことができるよう、今の自分のあらゆる可能性を否定せず生きなければなるまい。牧水が熱く恋した園田小枝子、そして一目惚れし歌人としてよき人生のパートナーに選んだ太田喜志子、牧水の歌が今も我々の心に響くのは、この二人の女性なくしてあり得ないこと。そんなことを、牧水の故郷・日向市で全国のどこよりも先に初演された「短歌オペラー「海の声」は、語り出してくれた。
台本は、もちろん牧水研究の第一人者・伊藤一彦先生。歌作のない小枝子の立場の歌や、核心的な場面を言い尽くす歌を伊藤先生が自ら創作し、牧水の歌との交響することで牧水の愛に満ちた人生が描き出された。また、牧水の故郷・日向(宮崎)の親友・平賀春郊を時折登場させ、牧水との「手紙」の内容をオペラ曲仕立てにしたことも演出・構成として効果的であった。折しも先日の小欄にも記した俵万智さん『牧水の恋』の内容とも重なって対話的に内容が深まるようで、オペラを観賞しながら何度も涙が滲み出たのであった。そして最後に、どうしても書き記さねばならないことはこれだ。何と牧水役を演じたオペラ歌手・渡辺大さんは、僕が高校教員としての初任校で3年間担任をしていた生徒である。公演前に伊藤先生と共に楽屋に伺い、「牧水役の渡辺さん!高校で牧水を勉強しましたか?あなたは国語を誰に教わりましたか?」と戯れつつ丁寧に問い掛けると、彼は驚きと満面の笑顔で僕に気づいてくれた。約20年ぶりであろうか、あの時から僕はこの日向(宮崎)の地に根を降ろす伏線があったということか。作曲の仙道作三先生が、よくぞ渡辺さんを牧水役に選んでくれたものだ。誠に人生の糸は数奇である。
「大塚窪町」牧水・喜志子が夫婦生活を送った街
「田端」牧水が喜志子と出逢った縁となる歌人・太田瑞穂邸のあった街
僕にとって、前者は宮崎赴任前に住むマンション、
後者は生まれ育った実家の街である。
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