こころを読み合う甲子園ー第8回牧水短歌甲子園準決勝・決勝
2018-08-20
「鮎の骨そっと引き抜くやさしさで居眠り母の眼鏡をはずす」(個人戦最多得票歌)
第8回目を迎える牧水短歌甲子園、この大会の特長は「(勝利だけを目指した)攻撃ではなく、双方が穏やかに歌を批評する点にある。」といった趣旨を大会講評において伊藤一彦先生が述べた。牧水の生誕地日向、その土地柄でもある人の温かみを十分に反映した大会の風潮になっているわけである。その「批評」が今年の大会では非常に充実していたことが、各審判の歌人の方々の講評の随所に表れていた。相互の歌への「質問・意見」を通して、その歌の読みが格段に深まっていく。「そのまま審査員の講評に取って代わっても」というような褒め言葉を、闘いの中で数多く聞くことができた。野球の場合も「勝敗が全てではない」という向きの発言を聞くのだが、この牧水短歌甲子園こそ、舌戦を通して対象となる短歌のこころを相互に、そして会場や中継で観ている人々のすべてにおいて、奥深く理解し合うという点に意義がある。
「名歌の裏に貼りついている多くの時間がある。」俵万智さんの講評での指摘である。大会に提出されたどの歌にも、高校生の生身の時間が貼りついている。題詠の「涙」「贈」「恋」には、まさに青春の生きた日常がある。高校生には高校生にしか詠めない歌がある。こうして短歌創作活動に真摯に取り組む高校生に触れると、高校の「国語」の授業がいかに空虚な建前主義であるかが、浮き彫りになるような気がする。教師も生徒も「建前」と「受験」という社会が人為的に作った障壁を乗り越えるための「勉(めて)強(いる)」、それは「生きる」ための「学び」にはなり得ていないのではないか。歌を創り相互を知り、自らを深く抉るように知ること。現代社会でこそ求めらている、相互・自己内対話が歌によって顕然として立ち上がるのである。今回の大会の特徴として、これまでは影を潜めていた「性」や「LGBT」をテーマとする歌が見られたと伊藤先生からも指摘があった。「学校」という空間はこころの解放という意味では、「タブー視」された「建前」が横行する。そこを切り開き「こころを読み合う」のは、やはり「歌の力」なのである。豊かで穏やかな社会のためにも。
OBOG会「みなと」の活躍が目を引いた
進行役をはじめ大会そのもの意欲的に支えた
「続ける」ことの大切さ、こうして次へ次へと人が繋がるということなのだろう。
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