まとめずして対立せよー『伊勢物語』「筒井筒章段」をよむ
2018-06-05
幼馴染で相違相愛の大和の女後ろ盾がなくなり通い始めた高安の女
どちらの女を評価しようか?・・・
担当の「国文学講義1」は、著名な「筒井筒」章段を扱った。井戸の元で背丈を比べるほどの幼馴染であった相思相愛の男女が、親の縁談も断って相互に歌を詠み交わして晴れて結婚する。だが、しばらくすると女の親が亡くなり経済的基盤を失ってしまう。(平安朝当時は嫁側の家が経済的基盤となっていた)そのままではお互いに惨めになると思った男は、住んでいた大和から10Kmほども離れた高安という地にいる女のところへ夜な夜な通い始める。だが元の大和の女は、疑うそぶりも見せず家を送り出すので、男の方はこの元の女こそが浮気をしているのではと疑った。そこで、高安に出向いたふりをして庭の前栽(植え込み)に隠れていると、この大和の女は一人でも化粧をして次ような歌を詠みかける。「風吹けば沖つ白波龍田山夜半には君がひとり越ゆらむ」序詞を駆使し男が夜半の龍田山を越えることを案じる歌である。この様子を窺っていた男は、その後、高安の女のところには頻繁に通わなくなったという筋書きである。
しばらくは男が通ってきていたのに来なくなってしまい、高安の女はやはり男に歌を贈る。自分の男への気持ちをストレートに詠んだ歌で、何ら体裁や技巧的な面も見えない。そうこうしているうちに男が高安に行った際に、女が杓文字でご飯をよそう姿を見たことで、その後は高安に行くこともなくなってしまったという内容までが語られている。相互の女の和歌のあり方や態度などが比較できて、平安朝当時の恋愛や結婚の様態が具体的に理解できる章段として貴重である。そこでこの日の講義では、この相互の女の和歌や態度をどう評価するか?という課題で個人思考から班別討論までを行った。班別では「意見をまとめる」のではなく、「対立点」を述べよということにした。学生たちは「大和派」「高安派」と言った言葉で、しかも男女混合班を意識して構成したせいもあったか、様々な男女の恋愛の機微について盛んな議論を展開してくれた。班別活動というのは、「対立点」を探るものなのかもしれない。
「学校」の活動は、すぐに「まとめ」たがる
多様性というなら、他者と異質な点に気づかせること
『伊勢物語』そのものが、これを如実に語っているではないか。
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