第324回心の花宮崎歌会ー谷岡亜紀さんを囲んで
2018-06-03
「ぼんやりと雨を見ており亡き人はもう雨の日に傘をささない」(『心の花』2018年1月号)「警報機の音鳴り止まず空梅雨のカンカン照りの関東平野」(『心の花』2017年10月号)
「青ざめてコスモスの花戦ぎつつ宇宙の果てのごとき公園」(第三歌集『闇市』)
心の花宮崎歌会では、毎年恒例で6月にはゲストをお招きしている。今年は谷岡亜紀さんで、冒頭に記した歌は今回の企画幹事の方々が選び、懇親会で鑑賞とともに披露された代表歌である。いずれもシンプルな表現によって明確な描写がなされ、一読して意味がわかりつつも韻律に導かれて奥深い創作者の視点が浮かび上がってくる秀作と思う。「傘をさす」という日常的な行為に、「生きる」ことそのものを見出す。誰しもが脳裏に焼きつきやすい「警報機の音」を聴覚的に響かせ天象の傾向を描写する。「コスモスの花戦ぎ」という小さくも素朴な描写がむしろ「宇宙」という無限の世界観を対極的に表現する。これらの歌を選ばれた会員の方々の鑑賞もよろしく、谷岡さんの歌人としての魅力を、存分に味わえる機会となった。
歌会冒頭には、谷岡さんの「〈今〉を伝える表現」と題するご講演があった。資料として小中高校生の作品を紹介し、初心者の子供たちの素朴で的確な表現の素晴らしさが伝わってきた。「交差させひとつ結んでくぐらせてはじめて結ぶ紺のネクタイ」(神奈川県高校文芸コンクール平成九年〜より)「ナイフのゆめ心の中が不安なまま小さな窓に朝日がのぼる」(NHK短歌大会・ジュニアの部)「ブラジルの大地にひとつボールありひとりがければみんな集まる」(海外子女文芸作品コンクール・平成八年〜)このような素朴かつ明確な描写の歌を谷岡さんがコメントを付して紹介すると、あらためて短歌の原点を見直せと言われているような気になる。谷岡さん曰く「形だけを整えて、人の言葉を借りて、歌にしているだけ」のように「歌を作ることに慣れてしまう」ということへの警鐘でもある。その後の歌会でもこうした素朴な描写への指摘、より面白い歌にする推敲案などが谷岡さんから示された。
「説明」ではなく「描写」をする
パラグライダーで飛ぶことの世界観の話なども
また「心の花」の「おのがじし」を浴びる一夜であった。
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