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人生の深みを知る歌集「時禱集」ー第22回若山牧水賞授賞式

2018-02-08
三枝浩樹さん「時禱集」
アピールやリアクションの歌ではなく
人生とは何か?人間とは何か?を問い掛ける奥深さ

毎年この時期は若山牧水賞の授賞式が開催され、受賞者はもとより関係する多くの歌人の方々などが宮崎で一同に会する機会となる。今年は三枝浩樹さん「時禱集」が受賞、選考委員のどの方の弁でも「全会一致」の決定であったと云う。長年、故郷の山梨で高校教員をされながら、結社「沃野」代表も務められ、日々の生活に根ざしながら「人生」の深みを詠んだ歌が詠める奥行きの深い歌人である。お父様は窪田空穂門下の歌人で、幼少の頃に空穂が自宅を訪れた際に、振舞われる豪華な料理が食べたくて兄弟とともに襖に穴を開けたといったエピソードも紹介された。山梨という土地に根を下ろしつつ、広く短歌の世界や生きる世界全般を問い直す歌人としての評価は高い。牧水が山梨出身の俳人・飯田蛇笏と友人であったエピソードも紹介され、若い頃はお互い励ましあって短歌・俳句を苦悩の中で作り続けたと云う。牧水とのゆかりという意味でも山梨の風土を介し、節目の苦悩という人生の結節点で関連があるようだ。

選考委員の佐佐木幸綱さんの評では、最近はアピール力やリアクション力など「エンターテーメント」に迎合する歌集も多いが、「時禱集」は「文学・哲学を思い起こさせる歌集」であると云う。60年代から70年代には「文学とエンターテーメントがはっきり分離していた」ということで、そうした「純文学」の香りを放つ貴重な歌集であると評価している。また栗木京子さんの評では、「読んでいて疲れない佇まいを感じ、透明感があり清らかで柔らかな歌集」であると云う。「一首一首が自己主張し過ぎず溶け合い、口ずさみたくなる音感の素晴らしさ、描写の細やかさやリフレインの滑らかさ」も栗木さんの弁。さらにテーマとして「母」を詠んだ歌などは、言葉を軋ませることなく平易な中に、人生の奥深さが実感できる歌集であると云う。そんな三枝さんは、牧水の歌をどう評価しているかも興味深かったが、「現代の若い人たちが、息苦しい閉塞感の色濃い時代に生きていて、そこから抜け出すヒントが牧水の歌に読める」と云うのだ。この評価からも、三枝さんの「生きる」ことの厚みが窺える弁であった。そしてまたもちろん、お酒好きという受賞者の条件?も奥深く資格ありの三枝さんとともに祝賀会や2次会が続いた。

三枝さん自選十五首から
「うつせみのひかり集めてたまかぎる夕べの色とわれはなりゆく
 おのずから胸に浮かびてとどまればしばし秘密のごとく母恋う
 きみの中の花瓶は修復できるから なずなすずしろを摘みにいこうか
 広やかなあおぞら ゆるすということを否、ゆるされていること知らず
 ゴドーを待ちながら人生が過ぎてゆくかたえの人もようやく老いぬ」


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