出自と家業と志ー牧水の”後ろめたさ”に学ぶもの
2017-12-10
明治の精神を考える出自や家業へ対しての思い
そして自らの志を貫く人生
「COC+地域定着推進事業」における配信型講義を担当しているが、この日は全15回のうち6回分が設定されている対面講義日の前半3回分であった。午後の3コマ(13:00〜18:10)を通して、牧水の短歌をもとにして地元みやざきで「教員」になろうとする意志を考える内容の構成とした。「人生は旅」として生涯を通して旅を愛した牧水。まさに大学時代というのはその旅のはじめ、いよいよ平地から山地へ踏み込み、内海から大海へと漕ぎ出す時期である。受講対象者は本学教育学部に限らず、他学部はもとより県内の連携している大学の学生も履修することができる。だがなかなか事業自体の認知度はまだまだで、受講者も決して多いわけではない。だが焦らずとも事業は3年計画であるゆえ、今回作成している配信型を通して向こう3年間は、僕がこの講義を担当することができることになっている。そんな広い学生たちを対象とする講義であるが、あらためて「教員志望」とはどういうことか?を僕自身も考え直すよい機会となっている。
高等学校段階の進路選択で、果たしてどれほど将来の道が明確に定まっているだろうか?僕自身が高校教員をしていた際にも思ったことだが、むしろ「定まっている」方が稀かもしれない。現状の日本社会であるならば、「定まっていない」からこそ大学に進学する(定める機会を先送りする)というのが忌憚のない実情のような気もする。世情は大学教育に専門職としての知識・技術を身につける方向性が打ち出され、ある学部に入学すると広い視野で人生を見据えられなくなる状況も生じつつある。その反面、社会では生涯一職種や一企業という雇用形態にも変化が生じている。若山牧水は現在の宮崎県日向市東郷町(当時は村)坪谷の生まれであるが、祖父は埼玉の所沢の出自で、江戸時代に長崎で医学を学びその縁あって日向に来ることになった。それゆえか牧水自身は、出生地の坪谷で常に「よそ者」である意識が高かったと云う。「自らの故郷はどこか?」という問いが牧水の中に渦巻いていたわけだが、そのことが「人生は旅」とする哲学を生じさせ、多くの名歌を生んだとも言える。また「医師」という”家業”を継がず「文学」の道を進んだ牧水の”後ろめたさ”は、常に牧水の抒情の芯になっているようにも思われる。こんな視点から牧水歌を読み直すと、地元みやざきで「教員志望」に揺れる学生たちに大きなヒントと勇気が与えられるように思う。もし牧水が「医師」という家業を継いでいたら、ここまで国民的に知られる人物にはなっていなかったわけであるから。
「脱皮しない蛇は死ぬ」(ニーチェ)
僕自身も「文学」「和歌・短歌」という芯がありつつ様々な土地を訪れる人生である
「大学」というシステムが狭量になっても、伸び伸び人生に旅立つ若者を育てたいと思う。
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