鼎談「年齢の花ーそれぞれの年代の歌」神話のふるさと県民大学
2017-09-24
小島ゆかりさん・なおさん母娘伊藤一彦さんによる年代の歌トーク
各年代の生き方が歌の表現に・・・
宮崎県は「神話のふるさと」として古事記・日本書紀編纂1300年(2012年〜2020年)に当たるこの8年間、県内では様々な関連学会やイベントが開催されている、今回は短歌関係ということもあり、特に来月の和歌文学会でもパネリストをお願いしている小島なおさんが、お母様のゆかりさんともども来宮するということもあって、事前から申し込みこの日がやって来た。鼎談では各「年代の歌」をテーマに、楽しく穏やかなトークが展開した。
前半は主に10代・20代の短歌に、小島なおさんがコメントをつけていく。「終電ののちのホームに見上げれば月はスケートリンクの匂い」(服部真里子)などに読めるように、「自然(月)」を扱いながら「感覚」で詠む歌が特徴的である。なおさん曰く「言葉へのフェチズム」が覗き見えて、「口語」の自由奔放な使用に「作者の息づかい」が読めると云う。それが30代ともなると、「三階のフィリピンパブの店員の肩の刺青「夢」の意味らし」(佐佐木定綱)や「すでに老いて父の広げる間取図のセキスイハイムの「キス」のみが見ゆ」(染野太朗)などに読めるような、実感や生活上の現実感が見え隠れするようになると云う。
また鼎談の席上、伊藤一彦さんの指摘もあって、小島なおさんの評論が一部紹介された。その生活において「ノイズレス」化が進み、若い世代の短歌に擬音語が減少しているのだと云う。茶の間のテレビよりはスマホ、友人との会話よりもWeb上のSNS、などによって情報を得て娯楽を楽しむ若者の「耳」と「音」を表現する感覚・感情の変化への指摘は卓越である。
さて、40代50代の歌は小島ゆかりさんのご担当。「木草弥や生ひ月といふ三月の死者の身体の木草がさわぐ」(本田一弘)など、3.11以後の福島を切実に捉える鎮魂歌など、「言葉」「風土」へのこだわりが増す。それでも感覚派として「世のなべて少女とならばおそろしき少女のむかで、少女のみみず」(水原紫苑)などもあり、歌が湧き出る「泉型」歌人と云う指摘。それに対して「細くかたく鋭いこんな革靴で一生歩いてゆくのか息子」(米川千嘉子)など就活の息子を詠む歌を挙げて、「樹木型」歌人といった類型の指摘にも話が及んだ。
そして、70代以上は伊藤一彦さんのご担当。「老年の品格などとは要らぬ事ただ生きるただそれだけの事」(清水房雄)などに読める、肯定的「アナーキー=無秩序」いわゆる「伸びやかに生きる」点に魅力があると云う。「キスうくる女優の眼鏡(グラス)とらるるを思ひつつめがねをはづす秋冷」(伊藤玲子)などありのままの自己批評が「ユーモア」として表現される。100歳以上の方の歌も、宮崎県で行なっている「老いて歌おう」には多数投歌される。歌を創ることによる「出逢い」と、歌を創ることで「歳をとるのも楽しみになる」と、人生を歌に生きる喜びが小島ゆかりさんから語られ、約2時間の鼎談は楽しいうちにお開きとなった。
母娘で短歌を語り合う楽しみ
ゆかりさん・なおさんの人間的な魅力にも触れた
まさに歌を創り語ることは、人生を語ることに等しい。
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