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興奮する歌書ー『作家の現場』佐佐木幸綱著

2017-08-05
短歌への溢れる情熱
スケールのあまりの壮大さ
こんなに読んで興奮する歌書があろうか

今月号『心の花』の特集が、「ぜひ読みたい短歌の本」であった。宮崎で懇意にする大口玲子さんが見開き1頁分で、『作家の現場』佐佐木幸綱著を紹介している。その文の最後に「三十五年前に刊行された本書が実作者ひとりひとりに問いかける問題は、今なお切実で新しい。」とあり、大口さんの紹介する観点の鋭さにも導かれ、書棚にあった『佐佐木幸綱の世界7』を早速読み始めた。大口さんも書いているように、「実作入門書」ながら「短歌の本質を論じた評論」であり、各章の観点は近現代短歌のみならず、千三百年の和歌短歌史を通底し未来へ向けても短歌の道を開拓するような、スケールの大きさと迫力に満ちている。読んでいると時折、同じ段落単位の文章を何度も読み返したくなり、次第に興奮度が高まり最後には黙読が自然に音読になっているほどの、誘発性を秘めた一書である。

多くの方に実際に読んでいただきたいが、こうして観念のみでこの書を語っていることそのものが、矮小な〈私〉を露呈しているようでもあるので、その興奮度の高かった文章を一部引用しておきたい。

「たとえば、西行の『山家集』を見るがいい。作歌という行為は、ぴりぴりとした神経的な行為なのではなく、もっと図太い行為なのだということが分かる。自我とか、オリジナルとか、あえて言うが、そういう小さなところにこだわらずに、太い線で、ひたすら根拠を目ざせばそれでいいのだ。『山家集』中にはおびただしい類想歌がある。八百年も経てば、そんなものは洗い流される。千三百年の歴史を持つ詩型に関わるということは、日常にはない、そういうスケールの時間に自分を晒すことなのである。」『佐佐木幸綱の世界7 評論篇2』(1998年 河出書房)


もう他言はいるまい、こんなに興奮する歌書は他にない。
なお、本書そのものの初版刊行は1982年、
当初は角川『短歌』1980年1月からの連載である。

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