一番大事な音は叩かず
2017-05-06
「優れたパーカッショニストは、一番大事な音は叩かない。」
(村上春樹の発言に呼応した知人のTweetから)
曲がりなりにもバンドでパーカッショニストを務めているので、冒頭のような発言は大変気になる。一次資料(『みみずくは黄昏に飛びたつ』新潮社2017/4)に当たったわけではないので、発言の文脈・真意からはかけ離れるかもしれないが、小生なりの捉え方を記しておこうと思う。元来、パーカッショニストは局所的にではなく総合的にみて「一番大事な音は叩かない」存在なのだと思ったことがある。バンドで音楽を構成すれば、ドラムとベースのリズム隊の安定感がボーカルを支え、ギターやキーボードが旋律を導いていくといった関係性にあるといえようか。この「リズム」にも「旋律」にも該当しない位置で、孤独にパーカッショニストは存在する。曲の中心には決して位置しないながら、「一打」のミスが曲を台無しにしてしまう。それゆえの、際立った緊張感に襲われることもあるが、恐れずに叩き続けいない限りその責務は果たすことができない。「一番大事な音」を聴衆に聴き取ってもらうには、そんな異種な「リズム」を実感させなければならない。
冒頭に引用した知人のTweetでも「リアリズムを優先にするのではなく、リズムを大切にするという意味。」という解釈が記されている。文筆表現や日常会話においても、こうした「リズム」が重要だと思うことは多い。とりわけ短歌は「自分で言ってしまっている」という評語が、歌会などで聞かれる。歌そのもので「結論」を分かりやすく言ってしまえば、読者の「解釈という仕事」を奪ってしまうことになる。もちろん表現活動であるゆえ、本能的には「言いたく」なってしまうことも多く、小生もこれまでに幾度となく「言って」しまった。特に「連作」などになれば、この「リズム」の意味はさらに肝要になるだろう。小説などの散文ならば「リズム」と「旋律」が上手く交響して、一つの世界観を構成していく。だがこうした村上の発言のように、「リアリズム」を重視して「分かりやすく」書くことは、作品として高次元に至らないということだろう。もちろんこの匙加減は誠に難しいのであるが、さながらパーカッショニストの孤高な存在は、短歌のあり方にも似ており、「一番大事な音は叩かない」心得が求められているのかもしれない。
「意味」「イメージ」「音楽」で一番大切なのは「音楽」と佐佐木幸綱氏
バンドでメインボーカルを担当する曲で感じることもある
「一番大事な音」を何と見定めるか?総合的な視野の広さが求められている。
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