公開講座「百人一首の響きー『ちはやふる』解説本を読む」
2016-12-18
みちのくのしのぶもぢずり誰ゆゑに乱れそめにし我ならなくに(源融)ちはやぶる神代も聞かず龍田川からくれなゐに水くくるとは(業平)
このたびはぬさもとりあへず手向山もみぢの錦神のまにまに(道真)
本年度公開講座第5回目は、標題の内容。『百人一首』カルタ競技を題材とする先頃映画化もされた、アニメ『ちはやふる』「公式ガイドブック」(Amazon「百人一首」部門売り上げ1位)の著書・あんの秀子氏をお迎えした。あんの氏は以前から諸方面でライターとして活躍しており、『百人一首』関連の書籍を数多く執筆され、最近の『百人一首』ブームで活躍中の方である。実は僕の大学学部時代のサークルの先輩でもあり、卒業後も様々に交流があった方でもある。空港までお出迎えに上がり、宮崎の青い空と海山をご覧になり一言「心が洗われるようだわね」と。研究室で軽い昼食をとっていただいた後、午後の講座を開会した。講座前半は主に「百人一首の魅力」と題してあんの氏の講演。時折、僕が対談的に話題を差し入れ歌人の背景や国語教育との関係など多方面に話題は展開した。カルタ取りをすると和歌そのものの内容はあまり重視されず、札を取ることに興味が集中すること。藤原定家撰の百首ということで、定家や俊成の筆跡の比較を古筆図録などを使用して紹介。百首がどのような配列構造になっているかなど、その基本知識から奥深い点まで、受講者のみなさんを納得させる話が披露された。
『百人一首』になると、どうしても個々の歌一首のみで歌を読んでしまいがちだ。歌の場面や背景は、各歌が元々収められている勅撰集を参照すればより一層理解しやすくなる。僕に与えられた解説の要点は「六歌仙」と「道真」であった。アニメタイトルともなった「ちはやふる」は冒頭にも掲げた業平収載歌の初句であるが、恋の歌が多い業平には珍しく「もみぢ」を題材とした歌が取られている。『古今集』を見るとこの歌は、素性法師の「もみぢ葉の流れてとまるみなとにはくれなゐ深きなみや立つらむ」(293)と並んで配列され、「龍田川にもみぢ流れたる」が描かれた屏風絵を題材として詠まれたという背景が詞書からわかる。この業平歌に代表されるように、六歌仙とは漢詩文全盛の時代下において、新規な和歌の試みに積極的に関与した存在である。『後撰集』雑などに収載される「石上寺」での小町・遍照の贈答歌などを読むと、褻(け)の歌の遊戯的な贈答として実に面白い。また、菅原道真はまさに漢詩文に長けた秀才であったわけだが、「このたびは」の歌には隠れた背景がある。宇多上皇の吉野行幸に同行した道真らは、奈良で紀長谷雄という漢詩人が馬に足を踏まれて怪我をし帰京を余儀なくされる。長谷雄が同行し続けたならば、道真とともに優れた漢詩を行幸中に数多く詠んだことだろう。しかしそれが叶わなくなって招聘されたのが、素性法師なのであった。結果的に和歌の得意な「代打」の影響から、行幸中に和歌も多数読まれることになった。道真の歌に「ぬさもとりあへず」といっているのは、長谷雄の不測の事態を受けて、「とりあえずは美しい紅葉を神に供奉しよう」という旅の安全を祈る一行の願いでもある。ここで取り上げた業平・道真の歌にはともに素性法師が関係している点も興味深い。
やまとことばは和歌の伝統があってこそ生き続けている
歌を読めば日本の文学史は多角的に理解できる
あらためて『百人一首』を読み直し、歌のちとせの伝承の偉大さに酔ふ宵の口。
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