「宮崎ねんりんフェスタ」伊藤一彦氏・坪内稔典氏・俵万智氏シンポ
2016-12-11
「誰もみな吾より強く穏やかに見える日ありて呆(ほう)けもまたよき」化けて出た夏の土用の丑の日にサンマが鰻どんぶりとなり」
触るなと夫の言うにもふざけつつ冷たい手指をしっかり握る」
(H28年度 心豊かに歌う全国ふれあい短歌大会 最優秀賞・優秀賞の歌から)
宮崎県と社会福祉協議会が主催する「ねんりんフェスタ」を参観した。20年目を迎えるという全国でも唯一ともいえる高齢者対象の短歌大会の授賞式である。撰者は歌人として名高い伊藤一彦先生、今回は20周年記念として俳人であり歌人の坪内稔典氏と宮崎県在住の著名な歌人・俵万智さんをゲストにお迎えしてのシンポジウムも企画された。会の冒頭では授賞式に続き、河野県知事も加わり入賞作品についての「短歌トーク」が約1時間。冒頭に掲げたのは「要介護・要支援高齢者の部」最優秀賞(1番目・94歳の方の作品)と「介護者の部」最優秀賞(3番目)の歌である。多くの作品は「老い」の現実をユーモアを込めて歌い、周囲の人・眼前のものや自らへの愛情に満ちた作品である。(2番目)の作品は92歳の方のものであるが、鰻を食べるのは困難であると判断した施設が給仕したサンマに対して、こんな歌でユーモアに受け止めたという現場の微笑ましさが伝わって来る。
「お父さんステテコの前縫いました妻の私が穿いております」(H26年度優秀賞)
「山茶花やぼけたぼけぬと笑う日々」(坪内稔典氏の俳句より)
後半は三氏によるシンポジウムへ。坪内氏によれば「俳句は高齢者が作れなくなるが短歌は作れるのだ」と云う。稔典氏は愛媛のご出身で宮崎は身近な存在、牧水の歌を「考えなくていいから声に出して読んだらいい」と先生に勧められて「気分がスッとした」という少年であったと云う。4月から宮崎に移住した万智さんは、長く住んでいる方よりも「宮崎のよいところが見え」、此処には「ふるさと」のすべてがあると云う。今回のシンポで大きなテーマであったのは「短歌と俳句の違い」である。稔典氏曰く「日本人の中には短歌型と俳句型の二種類の人間がいる」とし、「前を向いて歩き勉強が好きで言いたがり」は短歌型、「下を向いたり横を向いたり勉強嫌いでブラブラしている」のが俳句型という持論を展開された。俳句は十七音ゆえに「言いたいことは言わない」文芸であり「自分の作品について言いたい人は上手くならない」とも。それに対して万智さんからは「短歌は恋とも相性がよく、あなたを好きと言いたい」のだと云う。現代の短歌は多くの人が実名で詠んでいるが、それは作者と歌の言いたいことが強く結びついているから。こうした機微を司会者の伊藤先生が巧妙に引き出していく。そして『サラダ記念日』によって「口語(喋り言葉)」が自由に使われるようになったという指摘もされた。となれば、高齢者は多くの「言いたいこと」を心に秘めているわけで、この短歌大会の意義がさらに鮮明になってきた。この節の前段に記したのは2年前の優秀賞作品だが、万智さんが引用し「天国の〈お父さん〉への手紙」であると評していたが、誠に共感できる読みであった。三氏からは「俳句は愛媛」なら「短歌県」は「宮崎」であるという話題も。超高齢化社会を迎えるこれからの日本で、みんなが言いたいことを言いたいように表現できる豊かさは、「短歌」によって担われるといっても過言ではないと再認識した。
年齢や経験を問わず短歌を詠もう
この日の受賞に登壇した最高齢の方は何と101歳!その優秀賞受賞作。
「お風呂後はキレイな服に袖とおしいくつになってもオシャレはしたい」
- 関連記事
-
- アクティブラーニングと和歌・短歌 (2017/01/22)
- 他者を知ろうとする願望が (2017/01/21)
- 短歌県みやざきの教員養成 (2017/01/11)
- うたをよむことは人生に寄り添うこと(心の花宮崎歌会新年会) (2017/01/08)
- 自作の善し悪し尤も弁へ難き事なり (2016/12/28)
- 短歌県みやざきと読解力 (2016/12/27)
- 万葉集の調べに酔ふ (2016/12/13)
- 「宮崎ねんりんフェスタ」伊藤一彦氏・坪内稔典氏・俵万智氏シンポ (2016/12/11)
- 『心の花』2016年12月号掲載歌から (2016/12/10)
- 「創作に生きる」ということー心の花宮崎歌会から (2016/12/07)
- うたは何から生まれどんな効き目が (2016/12/06)
- 和歌をかくための文字 (2016/12/05)
- 宮崎大学短歌会はじめました! (2016/12/02)
- 思い込みと個性に評価 (2016/11/10)
- 「秋風の身に寒ければ・・・」シルバーケア短歌会「空の会」講演 (2016/11/02)
スポンサーサイト
tag :