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心の花全国大会2016②

2016-08-29
中入りはお客のためと噺家の力士にあらずにんべんの粋
(心の花2016全国大会・中村佳文出詠歌)

題詠「中」、互選1票獲得。発見の歌である。「中入り」というのはお客様が休むための時間だと噺家の師匠が強調して説いている、決して力士のためではないので寄席では「仲入り」とにんべんを付けてお客様思いの粋な人情を表現しているのだ。解釈を添えるならば、このような歌になるだろう。初参加にして互選1票の獲得は、ささやかながら僕には誠に大きな自信となった。選評いただいた先生方において、落語に詳しい方には新鮮味がなく、寄席などに馴染みがない方には「わからない歌」だという批評をいただいた。だが、昨日の講評に続き、この日も帰り際に宮崎の伊藤一彦先生からお言葉をいただき「面白くていい歌だ」と言っていただけた。更に自分なりの解釈を加えるならば、「中」と「にんべん」で「仲」という寄席における人と人との人情の厚さを一文字に託すという粋なはからいを、「離合」(漢字の構成を分解して歌の中に詠み込む。『古今和歌集』時代にはよく詠まれた。)によって表現している。このあたりはなかなか現代短歌では、他者に「読まれない」技巧であるかもしれない。この日の選評における議論でも主眼となった話題であるが、「誰にでも分かりやすい歌では、説明的でああそうですか」に落ち着いて、読書の心を揺さぶることも少ない」と云う。「せいぜい五割の人が分かる歌、分からな過ぎてもまた駄目でせいぜい三割がスレスレのラインか」といった話が、佐佐木幸綱先生からも為された。

また幸綱先生曰く「歌の優劣の基準は、次の三点にある。
1、表現の完成度が高い歌(三島由紀夫が徹底的に追究したような)
2、新しい発見を詠んだ歌
3、風格・格調の高い歌
これに加えて、読んだ際に調べがよくて「愛誦性」が備わっていることが肝要だと云う。
この大会では大賞が決定する議論が全員の前で公開されたのだが、そこでもこの基準が具体的に当て嵌められて大変参考になった。
大会大賞受賞歌は以下のような歌である。

「祈るとき合わすてのひらその中に願いを入るるふくらみのあり」
(163・水口奈津子さんの歌)

全体が「やまとことば(和語)」で貫かれており、ひらがなと漢字の配合具合も絶妙で表現の完成度も高いと伊藤一彦先生も評価されていた。来年の初詣の際に思わず口ずさんでしまうほどの「愛誦性」が認められると幸綱先生評。互選でも13票を獲得していることに表れているが、実に多くの人に「分かりやすい」歌でもあると同時に、誰しもが経験する動作ながら、簡単には「ふくらみのあり」に気付くことはない、まさに「発見の歌」に仕上がっている。更に言えば、「祈る」という人間にとって重要な行為に「人生」が見出せ、誠に敬虔に「合わすてのひら」という動作には格調の高さもある。なぜこの歌が選ばれるのかという必然性を、あらゆる条件で適えている歌といってよいだろう。

最後に質問コーナーで話題となった「連作」について覚書を。この大会で表彰される「心の花賞」は二十首の連作である。俵万智さんは卒論が「連作論」だそうだが、やはりその構成の仕方・並べ方の工夫が肝要であり、その上で1首でも立ち上がる歌がよいと云う。「だんご串」に喩えるならば、「串が太すぎずだんごの肉付きがよい」連作がよいと云う。また幸綱先生曰く、明治になって印刷技術の普及と「我」(自我)が立ち上がったことで、「連作」が盛んになったという指摘があった。その上で「二十首あれば人生が歌える」のであると云う。などと考えると、自分の中にあるこれまでの人生の葛藤や悲哀は、十分に題材となる可能性を秘めていると感じるお話であった。

学び多き2日間の経験
千年以上のやまとうたの歴史上で「われ」もまたかく歌へり
人生に限りない発見と格調をもたらせてくれるのが歌である。
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