時間と心育そして人間性ー学校図書館司書講習④
2016-08-23
子どもたちも教師も時間に追われ落ち着いて思考し自己を省みる間もなし
教育と人間性、技術や力にあらず人として・・・
学校図書館司書講習も最終日。4日目ともなると受講者同士も親睦が深まり、僕自身も最終日であることを惜しむ感情が去来する。対話と活動の時間を十分に採って実施してきただけに、受講者各位の発言場面や、ブックトークや読み語りの印象深い場面が脳裏に焼き付いている。資格講習である以前に、人と人とが出逢い前向きに子どもたちのことを熟考する。日々向き合っている現場から少し離れて、アカデミックな場で自己の置かれている状況を客観視する。かくのごとく「立ち止まり」そして思考を「沈着」させる、いい意味での”遊び”の時間が、現職教員にはぜひとも必要であると常々思っている。僕自身、現職教員として10年近く勤務した頃、ふと自分の置かれている状況に疑問を抱いた。自分の授業は子どもたちのために適ったもので、プロとして価値あるものなのだろうか?その現場における客観視が、僕を現在の位置まで導いてくれた。現職教員として自ら学費を支払い、仕事に追われつつ職場の理解も十分に得られないままの苦闘は、正直なところやった者でなければ理解できないであろう。だがしかし、もし僕が学部卒のまま研究者を目指していたら、今現在行っている如き講義はできないはずだ。受講者とともに子どもたちのために真摯に課題に向かう。やはり教育は、人間性あってのことである。
この日の講義でも紹介したが、僕の中にこうした感覚が宿っているのは、幼稚園時代の教育にあると実感している。水泳平泳ぎで名高い北島康介さんも卒園生である東京下町の幼稚園では、常に「心を育てる(思いやりとやる気)」教育環境が努めて整備されていた。(昨年、久しぶりに訪問したが現在もその教育は変わらない)「人の話を聴く時は、相手の眼を見てしっかり聴きます。」という園長と幼児たちの言葉のやり取りが慣例化し、様々な手作り玩具、折り紙に指人形、楽器演奏等々の情操教育が豊かに実践されている。通園もバスにあらず、保護者が責任を持って登園させる、手作りお弁当持参などと、現代社会においては不便だと思われる方針を貫徹して園は運営されている。北島康介さんが、インタビューを受ける際にあの丸い目をギョロッと聴き手に向けている真摯な姿勢も、たぶん幼稚園時代の教育の成果ではないかと僕は思っている。便利で効率的、対費用効果の高い仕事ばかりがもてはやされる時代。丹念にお客さんたる「人」に向き合い、真心と愛情を持ってその「人」の為に尽くす気持ちで仕事をする。そんな心ある経営をしている会社が置いていかれてしまう非情なる社会。いつからこんなにも「世知辛い」ことこの上ない社会を、僕たちは選択してきてしまったのであろうか?「技術」「力」「効率」主義であるゆえに、子どもも大人も「時間」にまくし立てられて、まったく「自己」を喪失するかのように走り続けている。だがしかし、その時間の延長上に待っているのは「不安」の二文字しかないことを、みんなが気付いているのに、気づかないふりをして追われる時間に仕方なく流されている。幸いここ宮崎県は、都会の喧騒に比べれば、まだ穏やかで豊かな時間が流れている。歌人の俵万智さんが、この日の地元紙の連載に「宮崎のタクシーはみんな優しい」といった趣旨の短歌と文を寄せていた。事務的に料金メーターを倒さず、実に人間味溢れる処し方をするというのだ。これぞ歌人の繊細なものの見方である。ここでは聊か僕自身の主張を綴ることになってしまったが、「人間性とは如何なるものか?」といったことを考える糸口が、受講者各位の個々の中に芽生えていることを確信し、講習を終えた雑感としておきたい。
「人」を見失うこと勿れ
メダル数にあらず、人の個々の希望と苦闘の成果である
諍いの準備ではなく、人間性豊かな心を育てる教育の整備を僕らが死守しなければなるまい。
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