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牧水短歌甲子園2016観戦

2016-08-22
放課後の影伸びてゆく初夏のサビがどこだかわからない歌
ほわほわが足りない私のたまご焼き母がはじめて食べて笑った
「おはよう」が返りくるまでコウモリの反響定位していたこころ

野球の甲子園大会におけるまさに決勝の行われたこの日、若山牧水の生誕地である宮崎県日向市では、「牧水短歌甲子園」の準決勝・決勝が開催された。今や「甲子園」と冠する高校生の大会は多く、技術系の製作からこうした文芸系まで幅が広い。僕自身は教員としての勤務校が、野球の甲子園大会で優勝したこともあり、あの深紅の大優勝旗のぬくもりを体感したことがある。それだけに「短歌」という無限なことばの「表現」において、真摯に自己と向き合う高校生の姿には、また新たな感慨を覚える。冒頭に記したのは、決勝を勝ち抜いて僅差で見事に優勝した宮崎商業高校の作品である。高校生らしく飾らない自己表出が読み取れて、実に爽やかで清々しい歌である。「初夏(はつなつ)の一光景を、「サビがどこだかわからない歌」に見立てる発想の素直な比喩。「ほわほわ」という擬態語で「たまご焼」の出来栄えを表現し、母が喜んだという気持ちを表現に託す描写。「反響定位」という専門用語を三十一文字に託する発想に加えて「こころ」とひらがなや漢字の使い分けへの意識。どれも読み応えのある歌である。


「顔よりも性格重視」と言う君が口に運んだゼリービーンズ
避難所に運び込まれた千羽鶴ゼンイは隅に積み上げられる
運命線ないと言われた左手が君の右手を強く握った

この三首は、準優勝した宮崎西高校の準決勝を勝ち抜いた作品。「運」という題詠であるが(決勝は自由題)、そこにも高校生らしい恋の気持ちなどが詠み込まれていて秀逸な作品。「ゼリービンーズ」という見た目だけ着色してある派手なお菓子に見立て、「性格重視」を揶揄する切ない恋の心情表現。「善意」を漢字ではなく「ゼンイ」とカタカナにして、否定的な感覚を批判した社会詠。自己の「手」でありながら、「左手が」と主語として強調することで意志を持った本能的な「動物」かと思うような動きで彼女の「右手を強く握った」という淡い恋心の発露する刹那を捉えた歌。こんな純粋な恋心をいつしか忘れてしまっている大人にとって、心の空洞を埋めてくれるような清涼飲料の働きに似たものを深く感じ取った。短歌そのものの出来栄えもさることながら、その攻防戦における討議が実に秀逸である。双方の作品への敬意を忘れることなく、しかも的確な弱点の指摘、そして具体的な推敲案の提示。まさにゼミで行われる議論の見本のような展開が目を引いた。

「今時の若い者は・・・」というが
短歌によって自己の素直な心を詠む若者たち
閉会式での「高校生と短歌」というスピーチに、目頭が熱くなったのは僕だけではなかった。
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