亜熱帯植物園で創る砂漠(群読劇公演初日)
2016-08-07
南国の植物が繁茂する「星の王子さま」の舞台である砂漠
空間と仲良くなり、場所を味方につけるとは・・・
7日間の稽古を経て、いよいよ公演初日となった。早朝は聊か朝寝をしようと決め込んでいると、我が家に滞在している女優&ギタリストご夫妻から声が掛かった。どうやら「お隣さん」が呼び鈴を鳴らしたらしい。玄関を出ると誰もいなかったが、家の前の道路を見ると唖然。かなりの位置まで、道路は冠水しているではないか。慌てて車庫の車をやや高くなっている庭方向へ下げて、エンジンルームへの浸水は逃れることができた。激しい雷鳴、テレビ等電気製品の電源を遮断し、暫くは天候の脅威に耐える時間が続く。だがそう時間は経たないうちに豪雨と稲光・雷鳴は止み、冠水も瞬く間に引いた。これぞ高台に居を構えた利点でもあろう。公演初日という緊張感の中で、こんな朝であった。1週間の稽古による疲労感に襲われている上に、公演時間の天候へのこの上ない不安が脳裏をよぎった。
午後1時から公演場所の青島公民館で最終稽古。狭い場所ながら出演者と演出の立山さんとの、最後の最後までとことん演技を突き詰める”対話”の時間が持たれる。この本番に賭ける執心こそが、表現に携わる者にとって微塵も疎かにしないという情熱の証である。これまでの稽古でも何度も指摘されてきたことであるが、「情報量を渡す」という立山さんのことばは、表現する者にとってはもちろん、〈教室〉で児童生徒に向き合う教師が何よりも絶対的に心掛けるべきことである。「伝えたつもり」では相手には伝わらない。敷衍して考えれば、文芸創作でも批評・研究でも的確に「情報量を読者に渡す」ことは、誠に肝要なことであるのは自明だ。学生はもとより多くの人々にとって、この点を実感する契機は多そうで意外に経験できるものではない。それゆえに独善的な「授業」「短歌」「評論」「論文」に陥っていないか、常に「表現」を再考して常に突き詰める必要がある。
最後の通し稽古の仕上がりは順調。それでも尚、役者は「緩い身体(モワ〜ンとした雰囲気)」にせず「ナチュラルにしない(=身体にテンションを掛け続ける)」といった構えこそが、観客への敬意だといった指摘が立山さんから出演者に向けられる。「演出のムーブを自己の解釈を活かして自分だけのものにする」といった役者としての醍醐味も伝えられた。個々の出演者には「感情で読むと観客に伝わらない、語感を渡すのである」といった、この1週間の集大成のような指摘も徹底して伝えられていく。そしていざ会場へ向かうに当たり、「空間と仲良くなる(場所を味方につける)」と「亜熱帯植物園で創る砂漠」といった表現を駆使して、立山さんが本番へ向けて出演者たちの意識を高めていく。演技は役者の言動のみならず、舞台空間や音楽・自然の音に野外ならば天候そのものも「表現」のうちなのである。〈教室〉での授業が、いかに狭い「教科書」のうちに閉じ籠っているか、そんな狭量から抜け出せと「演劇」の「演出」は語り掛けてくれる。
会場準備を進める最中から、植物園の正門を出て青島に渡る橋のたもとで、音楽ライブが開催されていた。植物園事務所も商店会も、そして僕らこの群読劇企画を進めてきた者も、1週間前まではこの「事実」を知らされていなかった。僕とともにこの企画を推進してきた県立芸術劇場の工藤さんが、何度もライブ担当者と折衝しプログラムの噛み合わせを調整し続けた。結果、開演は10分押し、さらに無事に開演したかと思いきや、また次のライブが開始される。今回の企画で当初から懸案とはなっていたが、予算の関係で演者個々の声をマイクで拾うまでの機材が準備できていない。野外の植物園という空間で、果たして1週間稽古を積んだ出演者の声が、観客に届くのかという点が、大きな課題であると僕たちは感じていた。その上にこの至近距離でもライブ開催である。だがしかし、「人生ピンチはチャンス」なのである。終演後に何名もの観客の方から、「むしろ出演者の声を集中して聴けた」とか「物語世界に入り込めた」という御感想をいただいた。それほどまでに、出演者の声は観客に届くものに成長していたとともに、出演者全員が集中を切らさずに演じ切ったことの証しがたったということだろう。本番後の立山さんの指摘もまた魅力的で「人間は音をスポイルする力がある」と云う。観客の「聴く力の照準」がブレることなく、出演者が対話関係を1秒たりとも切らさずに演じたということだ。そしてまた「明日はまた新しい作品を創るつもりで届けよう」ということばで、僕たちの本番初日が幕を閉じた。
亜熱帯植物園に突如として現れた「砂漠」
青島という地の構造も見えてくる貴重な機会に
「共存共生」僕たちは「愛と平和」を願う人であり続けなければなるまい。
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