人間こそが侵略者ー「ウルトラセブン50年」の信念
2016-07-10
幼少時に涙を流してみた最終回幼心に何か心に響くものがあった記憶が
ウルトラマンシリーズ50年の特番を視て・・・
幼少時に両親が仕事で忙しかったせいもあって、結構自分のことは自分でやる習慣があった。テレビ番組は何があるだろうと探り、ウルトラマンは必ず視ていた記憶がある。だがなぜかアニメ番組は好きではなく(不思議な子供で漫画本が嫌いだった)、「サンダーバード」「ジャイアントロボ」「仮面ライダー」など実写版の英雄物が好きであった。そんな中でやはり「ウルトラマンシリーズ」は、僕の成育史において記憶に残る名作といってよいだろう。特に「ウルトラセブン」に関しては、「地球防衛軍」の基地を始めとするメカが精巧であったこと、場面場面の音楽が誠に適合していたこと、そして子供心にその正体は分からなかったが、何らかの考えるべきテーマがあることを無意識に察知してか、奥深いものだと感じて一番没頭したシリーズであった。そのシリーズからほぼ50年が経過したようで、NHKで特集番組が放映された。それを視るとやはり「ウルトラセブン」に関しては、沖縄出身の脚本家・金城氏の揺るぎない信念をもとに書かれた社会派人間ドラマであったことを知り、子供心に感じていた「分からなかった正体」が理解できた気になって大変感激して番組を視た。「セブン」の中の幾つかの場面においては、幼少時の記憶と重なり、当時も無意識の涙を流したが、あらためて涙腺が緩む感慨に見舞われた。
善行な英雄が悪者を懲らしめる、所謂「勧善懲悪」は、江戸時代頃より大衆文芸において民衆受けする一つの話型である。多くの時代劇が類型的で、「悪者」を主人公が懲らしめて一話が完結する。いうなれば「印籠」や「成敗」や「必殺」などと「スペシウム光線」は同じ仕掛けであり、民衆はそれが最後に使用されることを知りながら、その安心感を担保にそれまでに至る悪行の甚だしさに心を一度は痛める。そして最後は英雄の笑顔が、民衆の心を掴む。だが子供心に僕は、「悪者の手下として斬られてしまう者にも家族があるのでは?」とか、「怪獣や宇宙人にも、地球に来るべき理由があるのではないか?」と思うことがあった。「分からなかった正体」というのは、こういう疑問のうちにあった。特集番組においては、とりわけ「ウルトラセブン」で描かれた「人間こそ侵略者ではなかったのか?」というテーマを紹介した。地球防衛軍が宇宙開発を進め、惑星を瞬時に消滅させる恐ろしい兵器の実験を行ったりする。そこに生命体はいないという独善的で傲慢な思い込みに反し、破壊された星から怪獣が地球に復讐のために飛来する。ウルトラセブンは、やるせない思いでその怪獣と対峙する。また地球そのものにおいても、実は先住民たる「ノンマルト」がいて、人類こそが彼らの生活を侵略して現在の繁栄を築いたというテーマも描かれている。その回を子供心に視た記憶は鮮明で、「ノンマルト」の代表として人間の姿をした少年が、地球防衛軍隊員のアンヌに語り掛けた内容を、僕はほとんど記憶していた。「ウルトラセブン」には英雄の抱くべき葛藤が随所に散りばめられており、それはベトナム戦争を背景とする時代の主張でもあったと番組は伝えた。地球防衛軍は反転すれば侵略軍になり、真の英雄とはその狭間で葛藤に明け暮れる理性を持った人のことだと、「セブン」は語っていたようである。誠に芯のある子供向け番組の制作信念であると、今更ながら深く感心した。現在、これほどの深みを持った子供向け番組が、果たしてあるだろうか?今こそ僕らは昭和の「セブン」に学ばなければならないのかもしれない。だが、そうしたテーマを描き出すと、当時であっても視聴率が下降したというから、視聴者たる民衆の理性とは何かを考えさせられる。さながら現代であればSNSなどで,食べ物などの写真を挙げると「いいね」が大量に付くが、社会的話題には少ないことと類似した現象である。
『走れメロス』もまた同じ
正義は反転する可能性の高いものなのである
苦しくて受け容れ難い葛藤を描くことこそが、知性なのだと知るべきであろう。
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