ことばに思考あり
2016-06-22
「ペットボトル半分の液体」をことばにすれば「まだ半分もある」
「もう半分しかない」表現に載った人の心情
冒頭に示した内容は、文学理論の説明としてあまりにも有名な方法である。実際に大学2年次配当科目である「教材開発演習」では、ペットボトルに水を半分入れて教室に持参し、学生たちにそれをことばで表現させてみる。概ね前述した2類型の表現が出されるが、中には妙に勘ぐって角度を変えた表現をする学生もいる。一般的に、前者なら「液体」に対して発言者は好感を抱いていない心情を読み取ることができる。また後者なら「液体」に対して好感が高い心情を抱いている可能性が高い。もちろんことばのみならず、口調やイントネーションなど口頭表現手段を添えることによって、この「心情」はかなり絞られた内容として判断できるようになる。ことばとは、発話者の「心情」を載せていると一般的には解されるものである。
例えば、「笑う(ふ)」と「笑む」はどうであろうか?『日本国語大辞典第二版』(小学館)に拠れば、「笑う(ふ)」は「声を伴い外発的」であり、「笑む」は「声を伴うのは稀で内発的」であると解説されている。小説でこの表現に出会ったら、他者との談話の中で面白い話題に触れている状況なら「声高に笑う」ということになる。また「彼はカフェの片隅で微笑む。」と表現されれば、彼の自己内で得られた動機から「声を出さずに表情に笑みを浮かべている」ということになろう。日本語も古ければ古いほど、いやせめて明治・大正期ぐらいまでは、こうした表現に対して精緻な感覚が働いていたはずである。このようにことばに対して敏感であって初めて、文学作品も「批評」することができる。注意すべきは、自分では無自覚に文章表現したことばが、一般的にはある「思考」の枠組みで捉えられてしまうことだ。最近の報道で聞いたことばでは、「隠蔽」などは大変危険な趣旨の相違を含んでいるような気がしてならない。
ことばは思考である
自分の表現に責任を持つとともに
他者の表現に敏感に対応し、注意深く受け止めていく必要がありそうだ。
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