生産者としての言語活動主体
2016-05-19
1枚の葉書に綴られたことば思いの丈を文字に込めて送るということ
価値の再生産と生成を求めて
人が貪欲に「話す 聞く」に取り組むには何が必要であろうか?取り沙汰する話題が、直面する問題で己の力では解決しようがないものであれば、その話し合いは自ずと深まり充実するものだ。人はことばによって自己の世界を再生拡充し、課題を解決することで初めて生きることができる。その課題は大なり小なりであるが、幼少時から大人になるまで果てしなく続いていく。まさに、ことばを学ぶことで自己開拓をし続けるということであろう。それを国語教育では、「言語活動主体」といった用語で語ることになっている。親からことばを学び、住んでいる地域に生きる世界を拡げ、ことばを通して思考・判断・表現し、文学を読めば想像の域を限りなく拡げていく。生きるということは、ことばを通して生産者となり続けることでもある。
1枚の葉書が、叔父から届いた。今月末に研究学会が叔父の居住する地方都市で開催される折に、宿泊を依頼した。事前に心遣いをと思い、季節が到来したマンゴーを贈ったことへの御礼が記されていた。通常は電話などで話すと口数の少ない叔父の文字を見る機会も稀であったゆえか、葉書の文字というのはまさに「生きたことば」だと、ささやかな感激を覚えた。両親などとともに親戚として訪れることが殆どであった叔父の家に、このように研究学会の機に訪れることができるのも幸せなことだと、自己の中にある価値が再生産されたような思いである。とりわけ、叔父の家に近い地方国立大学には、未だ訪れたことがないにもかかわらず、他ならぬ想いが僕の中にはある。そのキャンパスの光景を、ある理由があってこれまでに何度も想像を繰り返してきた経緯があるのだ。今、他の地方国立大学に勤務する僕が其処を訪れ研究発表をする、といったことばで今回のことを切り取ると、その深い意義を再生産し嚙み締めることができるのだ。
小欄そのものが価値の生産に寄与する
自己の今を切り取るということ
講義で扱った「話す 聞く」の教材研究の視点を、自己に返してみて感じたこと。
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