入試開場前の正門に立つ彼
2016-02-23
入試と書かれた立看板学部名称を貼り替えられるように
あの日あの場で見た光景
8時開場。入試当日、早々に家を出た彼は正門前の時計台の下でしばし開場を待っていた。人生を切り拓かむとする闘志に満ちて、寒ささえも忘れているのであろうか。開場された大学構内に入った約半日の時間が、その男の人生を大きく変えるであろうこともまだ十分に彼は気づいていなかった。だが一番乗りで誰もいない教室に入った時、何か閃くものがあった。そして英語・国語と入試科目が終わるとともにトイレに行くと、何か身震いがするような感覚が宿っていることを知覚した。最後は地理歴史の「日本史」、不思議と合格祈願をした弘法大師・空海に関する問題が出題されており、何やらただならぬ運命を悟ることになる。彼は妙な根拠のない自信を持って、入試を全科目終えて帰宅する。それから合格発表までの間は、むしろ日々その自信が薄れて、もう1年受験勉強をしなければならないのかなどと考えてもいた。
合格発表当日、彼は家を出て一人で発表掲示板の前に向かった。遠目に掲示板を見ると、2桁番号は1列もないうちに3桁の番号になっているのが分かった。彼の受験番号は2桁「73」であった。その受験票が家に届いたその時、彼の母はそれをそのまま鞄に入れて合格祈願に向かったと云う。1ヶ月に1度の祈願を母は1年間続けていた。その「効力」は、2桁の希少な番号の合格発表掲示の並びに表示されているのであろうか?次第に近づいてみると、ぼんやりと番号が見えた。「あった!」夢か幻か・・・合格手続書類を受け取った後でも、彼は今一度その「73」を確かめるほどであった。付近に設置されている臨時公衆電話は長蛇の列、構内から出てしばらく歩き閑かな電話ボックスを発見し、彼は両親に「73」があったことを報告した。
ある男の入試当日から合格発表まで
人生の岐路になったあの頃は、今も彼の支えとなっている
この時季、正門を通るとあの日の彼が今も立っているような気がした。
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