「適切」たる意味の幅
2015-06-17
「適切に判断せよ」「最も適切なものを選びなさい」
「適切」の意味を”適切”に捉えるには?
「適切」とは国語辞典(『新明解第6版』)に拠れば、「その場(物)などに、よくあてはまる様子だ。」とある。漢和辞典(『漢字源』)で「適」の字を引けば、「1、ゆく。まっすぐにいく。まともに向かう。」「2、とつぐ」「3、心地よい。思い通りの。」と多様である。いずれの場合も、「その場(物)」の基準の如何や、「まともに向かう」の「まとも」をどう捉えるかによって、その意味に振幅が出るようにも思われる。また、同じ「適」の字を使用した漢語であっても、「適切に行なった。」と「適当に行なった。」では日本語としての語感に大きな差が生じる。更には「かなう」と読めば、「ぴったりとあてはまったさま。」と漢和辞典の意味にはあるので、「まともに当たる」といった語感も生ずる。
試験の設問には「最も適切なものを選びなさい」とある。嘗ては「正しいものを選びなさい」とされていたこともあったが、今は選択解答式のセンター試験「国語」でも前者の表記である。なぜ「正しい」から「最も適切」に変化したかといえば、「正しい」は作問者の恣意こそが「正解」であるという趣旨が強く反映するからだろう。作問者のみならず、「一般的」に考えて「ぴったりとあてはまる」ものを選びなさい、というのである。更には「最も」が付随するのも曲者である。二番手・三番手に「適切」であっては「正解」ではなくして得点にならず、「もっとも」な基準に適ったものを選べといっているのだ。その基準には、行き着く所は作問者の恣意が反映せざるを得ないのではないだろうか。
語感を和らげつつ強制する策略がある
「適意」とは「自分の思い通りになること」である。
昨今、巷間で頻繁に聞かれる「適切」の意味の幅に御用心あれ。
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