わからない感情を詩で見つめる
2015-03-05
「言葉で過去を消そうとするけれど目前の人っ子ひとりいない波打際は
目をつむっても消え去りはしない」
(谷川俊太郎「後悔ー五つの感情・その一」より)
思いついて詩集の頁を紐解いて、偶然にも出逢ったことば。たぶん「過去」にもこのことばを受け容れたらしく、青い付箋がついていた。たぶんその付箋の動機は、朗読会などでこの詩を読もうかなどと考えて、テーマに沿って選んでいるときだったはずだ。その「実利」的ともいえる選び方が一枚の付箋になって貼られているが今は違う。偶然と聊かの必然に支配されつつ、この詩に再び漕ぎ着いた。すると胸の底で熱い感情が、喩えようもなく僕自身を突き動かすのだ。
昨日の「夢想」の話題にも通じるが、僕たちは「ことば」で過去を保存したり、はてまた「消そうと」したりしている。「ことば」は時間まで支配しているし、その存在によって人間は口呼吸ができるようになったという生理的な進化を遂げたとも云われる。誠に「ことば」は偉大である。「ことば」があるから虚偽も生産し、詭弁を施すような腹黒い生き物なのである。しかし負の面のみならず、一片の「ことば」によって救われることもあるゆえ、その扱いを決して疎かにすることは許されない。
結局僕たちは自分の感情がわからないゆえに、「ことば」のみを頼りにするしかない。
「くり返す波の教えるのは
ただ一度も本当のくり返しは無いという事」
(谷川俊太郎 同前より)
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