外山滋比古著『リンゴも人生もキズがあるほど甘くなる』
2015-01-06
「敵ヲ知リ己ヲ知レバ百戦危ウカラズ」(孫子)「田舎の学問より京の昼寝」(諺)
「日本人は目で考える」(ブルーノ・タウト)
『思考の整理学』で著名な外山滋比古、老巧の最新エッセイ集である。「はじめに」で日本人の自身喪失が語られ、「見えるものに心を奪われ、見えないものをバカにする」性質を「幼稚」と斬り捨てている。「ものごとをしっかり考え、洞察する力」の重要性を多様な角度から指摘している。決して過去の著作のように奥深さはないが、それでも尚、老練のことばに耳を傾けるという意味での価値は高い。そんな思いで、夕餉の後に一気に読み通した。
最近、僕自身が「田舎の学問・・・」に陥っていないかと、やや痛い思いもした。学問のみならず、日常的にも先入観や思い込みで判断してしまっていることが多いと自覚した。この日も、新年のトレーニングをしようと張り切ってジムまで行くと、灯りが消えて真っ暗、そう!休館日であった。「月曜日=始める」という先入観が強過ぎた。(だが即座に、読書の時間が得られたと嬉しくなった)東京の母校(大学)で講師をしていた時の縁で、慕ってくれている学生の大学院学年を1年先取りしてしまっていた。まあ彼女の研究が優れていたということに起因しているので、あながち悪い思い込みでもないとは思いつつも・・・。
外山のことばは、ふと何かを気付かさせてくれる。「負ける経験をするのがスポーツ」「愚をよそおって他者を喜ばせる」「休まなければ疲れることも忘れる」「腐りかけのバナナがもっともおいしい」「よい我慢はしても悪い我慢はするな」「充満したストレスを目標とするところに向けて噴射し、大きなエネルギーを生ずる」「道を歩かぬ人、歩いたあとが道になる」「心の世界にまで、みずからの姿を見る鏡が欲しい」等々・・・・覚書として
「善悪・良否・美醜を見きわめる判断力・識別力」
まさに思考は限りなく柔軟であるべきで、「知識バカ」ではいけない。
外山のことばそのものを「合わせ鏡」として、物事を「見よう」とする方にはお勧めの一書。
(2014年7月刊・幻冬舎)
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