「ことば」は偉大な「経験」になる
2014-12-05
「ことば」はあらゆるものを創る思考・表現・コミュニケーション
特に「小説のことば」となれば・・・
附属中学校公開授業研究会が開催され、国語科では、2年生で『走れメロス』の授業が実施された。1962年教科書に掲載以来、次第に全ての出版社のものに採録され50年以上の月日が経過した教材。まさに定番中の定番教材であるゆえ、参加者の多くが自らが中学生時代に授業で学び、教員になってから授業実践し、幾度となくこうした授業研究の場で実践を参観したことだろう。この「国民的」ともいえる小説の「ことば」は、一体どんな点に魅力があるのだろうか。
描写・台詞・内言描写・批評的語り・声掛け等々、『走れメロス』の文章は、実に複雑でテクスト分析は、決して容易でない。結構難解な漢語も多用されており、読み方一つとっても中学生には難しい。だがこの「教材」が中学校教科書で定番化したのは、「信実と友情」を描いていることばかりではないだろう。いや、そうでないという理由を今は発見すべきではないかと思っている。それはやはり「人間理解」という多様は思考へアプローチできる教材であるから、という点を、まずは概ね指摘しておくべきではないだろうか。
「信実と友情」を護り抜いた、という「美徳」ばかりが目立つが、メロスは脆弱な精神を露呈し、自分勝手に無謀であり、過剰な正義感のみに突き動かされ、状況への冷静な対応ができない。だいたい、親友を人質にしながら約束の刻限ギリギリに刑場に辿り着くという、一歩間違えば親友の命を犠牲にしてしまう”きわどい”行為を、なりふり構わず実行している。その過程では、「もうどうでもいい」などと、どん底まで頽廃した心を抱く。こうした人物設定が実に大仰であり、またいかにも物語的なのであるが、その誇張の中にも、実は「人間」だれしもが抱く葛藤が表出している。中学校2年生で、どこまで「生きる葛藤」を持つかも各人多様であると思われるが、やはりその後の人生のどこかで、必ずそうした葛藤の渦に呑み込まれる時が訪れるであろう。それを、「小説のことば」を通して、「演じる」ように「経験」しておくのが、この教材の価値ということになろうか。
思い付くままに覚書を記した。
また授業を通して「人間理解」を視ることができた。
やはり「ことば」は、偉大な「経験」を築くものである。
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