酒縁・学縁・地縁の短詩型鼎談
2014-10-27
酒で人は繋がる同窓で学んだありがたさ
そして此の地で引き継がれた短詩型文学
地元放送局の開局60周年記念鼎談を拝聴。登壇したのは、吉田類さん・俵万智さん・伊藤一彦さんのお三方である。この企画にはぜひとも足を運びたかった。というのは、三者三様な縁が僕にはあるからだ。「酒場放浪記」で有名な吉田類さんとは、ある著名な方を介して、以前に1度お会いしたことがある。その折は、僕が懇意にするオーナーが経営する神保町のBarで酒をともにした。俵万智さんは、大学日本文学専修の1年先輩である。学部当時は話したこともなかったが、昨年此の地で1度会う機会があり、彼女の同級生は僕もよく知っている方々であるなどと話し、記憶に刻んでいただいていた。伊藤一彦さんは、若山牧水の研究者で歌人である。此の地に僕が赴任して以来、講演や学会などで何度かお会いし、郷土の文学を興隆させるべくといった趣旨で懇意にしていた。
この日の鼎談では、「酒縁」という造語が類さんから提案されていた。「酒場放浪記」のようにいきなり居酒屋を訪れても(店にはアポをとっているらしいが)、5分か10分で常連さんと意気投合するのは、「店の雰囲気」+「酒の力」であるという。精神を解放し初対面の人とも仲良くなれる。酒で乱れる人というのは、その人格に問題があるらしい。一期一会であっても、その刹那の時間を大切にする。カウンターを囲むコミュニケーションは、日本独自な”公共文化”であると自負できるそうだ。そしてまた俳句にその心を刻み込む。酒には文化の薫りが漂うものだ。
俵万智さんは、現在沖縄地方の石垣島で生活をしているという。都会生活では見られない虫が沢山いて、空には天然記念物の鷲が飛ぶ。窓からは真っ青な海が見えて、夕闇の中で風に吹かれているような生活。『サラダ記念日』から20年以上の時を経て至った境地ということだろう。1年の差はあれど、同じ環境で学んだ身として、短詩型文学への思いで共通する点を彼女の言葉の端々に感じる。僕自身は古典和歌の研究をしているが、その意義を再考させてもらうようなお話を伺えた。更には僕自身も、学部時代からその思いを持ちながら「本気」になっていない短歌創作への意欲も湧き上がった。
伊藤一彦さんには、今回も事前にお手紙を出し、鼎談後に類さん・万智さんらと話せる機会を仲介していただいた。やはり僕と同窓の大先輩である。郷土の歌人・若山牧水をこよなく愛し、俳優・堺雅人さんの高校恩師でもある。高齢者短歌を全国から募り、100歳以上の投稿も数多いという。その秀作を鼎談で何首か紹介されていたが、何とも微笑ましい歌が多い。これから更なる高齢化社会となる日本には、短歌コミュニケーションが好ましいと語っていた。一般紙に毎週のように短歌や俳句が投稿される国など、そう他にはないという。地域創生・高齢化社会への対応は、短詩型からということであろう。
お三方の共通項は、楽しい酒とともに、自然をこよなく愛するということ。類さんは最近、「小さな虫でも殺さない」といったことを心掛けているという。「一番の弱者」が生き延びられる環境であれば、みんなが元気に共生できるといった境地であるそうだ。万智さんも、今後は自然を詠む歌が多くなると語っていた。伊藤さんは、大学時代を東京で過ごしたが、その「勝ち負け社会」に辟易し、故郷へ戻ったという。若山牧水もまた自然を愛し護り続けた精神の持ち主であった。こんな話を聴いていて、ここ最近の自分との共通点を見出した。短詩型を通じた豊かな精神の置き所を自然豊かな地で創生する、それが僕が此の地で生活する意味ではないかと。
「型」があるからことばを深く吟味する。
その韻律の美しさ繊細さに興じる。
詠もうとすれば心の機微を自覚する、何とも豊かな生き方ではないか。
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