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彼の岸此の岸

2014-07-20
彼の岸に見える野球グラウンド
此の岸は大学の高層棟
県境である以上に、僕にとっての大きな境目

和漢比較文学会東部例会に出席した。会場となった大学は、東京都と千葉県に県境を流れる川沿いに位置し、都心で今や流行りの高層棟にて行われた。建物の立つ此の岸は、歴史的に由緒ある土地で、千葉県側である。東京都心部が一望でき晴れていれば富士山を望むという。曇り空ゆえ遠景が望めないせいもあるが、僕にとってのとても気になったのは、川の対岸土手にある野球グラウンドであった。

彼の岸のグラウンドには、高校教員時代に部活動の試合で生徒たちをよく引率した。この時季だと炎天下でありながら、陽光を避ける場所もない厳しい環境であったが、1日中試合に明け暮れていたこともあった。接戦に末の勝利もあれば、悔しい逆転負けを喫したこともあった。野球好きな僕にとって、ソフトボールのベンチで采配を振るうことは、仕事ながらある種の楽しみでもあった。よくぞ休日もなく教員生活をしていたものだと、若かりし日々の己の幻影が見える彼の岸であった。

そんな教員生活も研究を進めるに従って、激しい苦痛を伴う葛藤となった。休日に研究学会に行けないということが、研究者として大きな負であるからだ。ましてや、自分で研究発表をしようという段に、部活動の試合日程が重複するという"悲劇"もあった。やむを得ず他の教員に引率を依頼して研究発表に臨んだのだが、部員にとっては悪徳な信用のおけない顧問と化していた。学位をもった部活動引率者など、全国でも稀少ではないかと独り言を心で呟き、己を慰めていた。

僕は今、此の岸にいる。たぶん誰にも理解し難い葛藤を超えて。彼の岸を常識と考える人々にとっては、未知の研究発表会場にいる。この日も研究発表者の司会役を仰せつかり、采配ならぬ進行役を務めた。日光を浴びることもなく雨に濡れることもない。紙面上の資料に向き合い和漢比較という学問の「ボール」を追究している。僕の歩みにとって、あまりにも象徴的な河川対岸構造において、此の岸にいる今の自分に本望たる安心を覚えるのであった。

夕刻からは学生時代のサークルOB会へ。
「生まれ変わったの?」という同級生の言葉。
そう、人生は何度か川を渡るのかもしれないと心で呟いた。

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