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上村愛子の28秒88

2010-02-15

14日(日)ゆったりした休日の朝。一週間に一度ぐらい時間に拘束されない朝を迎えたいものである。日常が、朝から何時の電車で何時までに出勤し、何時にはこの仕事を終わらせ、何時に人と相談して、何時には人と会合を持ち、などと時間に追われた毎日が過ぎる。人にとって時間とは何かと改めてつくづく感じてしまう。

 この日は、昼過ぎからバンクーバー冬季五輪の女子モーグル決勝のライブ中継。やや風が強く霧もかかるモーグル斜面が画面一杯に映し出されていた。この時間以前に行われた予選で、日本の上村愛子は5位通過。まずは、順調に予選を通過したといってよい。

 今までもWC(ワールドカップ)で、何度かの優勝経験がある上村。しかし、その滑りはスポーツニュースの映像で見るだけであり、なかなかライブ中継で観ることはなかった。しかし、やはりライブで競技全体の流れ、各選手の滑りの中で観る上村の滑りというものは、いかに過酷なものであるかが想像できた。彼女のこの日の、決勝タイムは「28秒88」。このわずか30秒以内の時間のために、どれだけの身体的な練習と、精神的な鍛錬があったかと思うと、4年に1度の五輪競技の意味が、当人ならずとも、重圧であることが改めて理解できた。

 従来は、エアーを得意としターンは苦手とされていた上村だが、この数年は苦手のターンを克服し、WCの映像などでも迫力あるスピードに乗った滑りを見せていた。苦手を克服するというのは、誰しも厳しい道であろうが、上村の精神的な強さが、ターンの改善に表れてきたと受け止めていた。この日の滑りにおいても、その持ち味は十分に出したといってよいだろう。しかし、敢えて言うならば、第2エアー後の滑りで一瞬バランスを崩したことで、28秒台という結果になったのか。何ともこの一瞬のターンによって、メダルかどうかという順位が左右されるのだ。結果だけで語るには、大変「非情」な競技と言わざるを得ない。

 現に、上村が3位以内の椅子に座った後、何人かの選手が果敢な滑りの中で転倒した。上村がメダルを獲得するにはありがたい場面だが、映像を見ている限り、その光景を日本人として利己的に観ているわけにはいかなかった。転倒した選手たちにも、この五輪に向けたそれぞれの闘いがあったはずだ。このライブ中継を観ている間に、モーグルという競技の過酷さが十分に伝わってきたので、むしろ転倒した選手に同情的な気持ちさえ起きてきた。転倒したはずみでスキーまで外れタイムアウトになってしまった選手。転倒の後に、最後まで滑りきって、しかも悔しさの中で笑顔をカメラに向けた選手。4年間をこの30秒以内に懸けてきた各選手を、どんな滑りであっても賞讃すべきではないかという思いが心に充満した。

 上村は五輪で7位→6位→5位ときてそして今回の4位。確実にその歩みは上を向いてきた。それと、この競技の技術と競技性としての「運命」を考えると、この4位はどんなにか誇るべき成績なのではないかと思う。勿論、本人の弁にもあるように、悔しさがないわけではないだろう。本人が誰よりも悔しいはずだ。それだけに、競技直後に周囲の人々が「大丈夫だよ」となだめたというが、メダルか否かということよりも、こうして階段を駆け上がってきた上村の進化を、我々は大きな拍手で讃えなければならないはずだ。100回滑ればまた順位も変わってくるはず。されど五輪は五輪、4年に1回の28秒88は、涙が出るほど立派な成果ではないか。

 「二度とない今一瞬(28秒88)を一生懸命生きている。実はこれは誰しも、人生の今と同じなのだ。」Twitterで知人がつぶやいた言葉が、核心を突いていた。
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