育って来た部屋
2013-08-11
思春期を過ごした部屋がある。過去の遺物を聊か残す実家の片隅。
窓から見える光景が一変している。
でも確実に其処で育って来た。
青かった頃の記憶。
必要あって実家にある自分の部屋の整理をした。殆どの書物を持ち出しているのだが、それでもなお遺されている大学受験参考書類などが書棚にある。また大学時代の教科書で専門研究とは関係のないものなど。其処は確実に僕自身の高校・大学・大学院の歩みが物理的に存在していた。
その部屋の窓からいつも眺めていた光景がある。遥か遠くにほんの先端だけ東京タワーが見えた。ある会社のネオンサインが点灯する時間さえ知っていた。東側に面した窓からは東京下町の空に美しい曙が見えた。早朝から勉強していた時に、思わず『枕草子』の初段を音読したこともあった。
自分自身が拓かれて行く時季がある。部活動と勉強の両立。英語学習の苦悶。文学作品の奥深さに驚嘆し、様々な想像を働かせた。そして恋に悩み、威勢を張って電話をしていたあの頃。よかれと思った行動のすべてが空転していたかのような時代。だがその空転の摩擦があったからこそ、現在があるのかもしれない。何度も転倒して膝を擦り剥くような経験。ほろ苦い青春の思い出たち。
思い出は思い出として心の中に。
埃を被って堆積が過剰であれば、いつしかその重さが前進を阻む。
聊か「断捨離」の発想を以て進めた実家の整理。
育って来た部屋に感謝しつつ、更なる前進を其処に誓う。
歩んで来た道が、決して間違っていなかったことも確かめられた。
物理的整理は、心を前向きに躍動させるものである。
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