「未来は、歩きながら考えていくものだ」ー『FAMILY GYPSY』との邂逅
2013-07-20
「止まっていると、心は揺れる。動いていると、心は安定する。
方角なんて、直感でいい。
まずは、一歩を踏み出そう。
未来は、歩きながら考えていくものだ。」(同書165頁)
昼食後、大学書籍購買部に何となく足を運び手に取った一冊。そのPrologueを読んで、思わず涙腺が緩んだ。しばらくその場から離れられずにいたが、ページを繰ってその素朴な写真を目にし、久し振りの衝動買いに及んだ。高橋歩著『ファミリー・ジプシー/家族で世界一周しながら綴ったノート』(サンクチュアリ・パブリッシング 2013年5月)である。
自分が生きて来た「枠」にこだわらない。自然と戯れて、気持ちの赴くままに世界を旅する4人の家族。その自由な発想と行動力は敬服に値する。些細な”仕事”にこだわることなく、子どもたちの学校がどうなるのかに不安を抱かず。ただ一度しかない人生を「シンプル」に前を向いて生きる。読み進めるうちに、何歳になっても人生は夢を持つべきだということを考えさせ、明るい躍動感が心に宿ってくる。
われわれは、自分の人生でありながら、いかに周囲が作り上げる「枠」に囚われて生きているのか。反転して述べるならば、「居心地のいい日常に、ぬくぬくと縮こまっていないで、新しいことにガンガン挑戦しながら、死ぬまで学び続けようぜ!」(同書53頁)ということを行動に移せないでいるか。「周りからの評価」を気にして、その”根拠もない決め付け”に「一喜一憂」しながら、自らの生を浪費していやしないだろうか。
「悪く言われても、意地悪されても、進むべき道を進む。
ほめられても、チヤホヤされても、進むべき道を進む。
ただそれだけでいい。」(同書125頁)
もちろんこれは、学生時代から活力漲る生活を常に追い求め、このような世界一周ができる経済力を兼ね備えている高橋歩さんならではの生き方であるかもしれない。だがしかし、それを本の中の人物と考えるか、自由に生きる”隣人”と考えるかは、僕たち次第だ。その豊かな笑顔溢れる「世界一周家族旅行」の写真を見ていて、実に温かい気持ちにさせられた。そして僕自身の想像力が随所に起動し、眼前にある自らの人生の歩み方を何度となく考えさせられた。
ふと振り返ると、僕自身も高橋歩さんほどではないが「「枠」を破壊する」人生を歩んで来た気がする。中学(一貫校)入学・大学進学・就職後の変遷・再度の大学院進学、そして今、新たな土地での新たな一歩。そこにささやかな「GYPSY」性があったからこそ、高橋歩さんの人生に共感できるのかもしれない。「進むべき道を進む。」生き方、である。
同書は、嫌味のない爽やかな家族愛に溢れている。「価値観の不一致」といいながら「最後まで一緒に生きよう」という想いだけは一致しているという愛する妻。好奇心全開で自然や異文化と戯れる逞しくも笑顔を絶やさない子どもたち。旅の先々で、寝る前には絵本を読み、やがて各自が新しい”物語”を創るということが恒例となったという。その随所で子どもたちが味わった出逢いが、その物語に凝縮され人生の財産となっていく。お金や学歴だけが人生ではないことを、同書は豊かに語り出してくれている。
「人間っていう生物は、とてもシンプル。
将来に「楽しみ」があるから、頑張れるんだと想う。」(同書145頁)
最後に
「俺が幸せに生きるために、一番大切なことはなんだろう?
まずは、それを、大切にすることから始めよう。」(同書67頁)
食事の間も惜しみ、寝るまでに一気に通読した。
いや通読せねば寝られなかった。
そんな豊かな興奮をもたらす一冊である。
ぜひご一読いただきたい。
自分の生き方を確実に考えることになるだろう。
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