「読み聞かせ」は人生に意味を与える
2013-06-16
「授業に活かす朗読講座」集中講義今年度第3回目。今回のテーマは、「読み聞かせが教えてくれること」。
春口あいさん・下舘直樹さんを迎えて絵本語りの実践を交えて展開した。
作品の全体像を読むグループ内で共有すること。
「読み聞かせ」をどんな対象へ行なうかを意識すること。
この2点が大きな課題であった。
冒頭に「フィクションの効用とは?」といった問題提起。学校教育の鋳型に嵌り込むと、ファンタジーは経済最優先主義的解釈をされ、偏狭な処世訓の中に落とし込められてしまうという"矛盾"。自分が面白いと思うものを無邪気な心で受け止める対象に対して読むということ。それが「読み聞かせ」の原点である。感想文を書かせようとか、語彙テストがあるからとか、正解を出すためにファンタジーを読むのではないということ。子どもたちには活発な想像力とことばの美しさに反応するのだということを忘れてはならない。もちろんこれは子どもたちのみならず、純朴に自然に生きるこの世のすべての人々にとって必要な姿勢である。
「声」を届けるとは、「呼吸」を届けること。春口さんのをウォーミングアップで提供された姿勢。吸った瞬間に、出てくるセリフが生成されているという役者としての呼吸。「張り上げた声」ではなく、「対象に投げ掛けられる声」。アナウンサー・朗読家と先の2回の講座ゲストとも違う、「声を届ける」レッスンで学生の柔らかい声が生成されて来た。
下舘直樹さんの弦が優しくも逞しく教室に響き渡る。『アンジュール』という絵本をギター1本で語り尽くす。学生の感想の中にも、ギターだけでこれほどまでに表現が豊かになるのかと感激した内容が多数見られた。そして読み書きせの際に挿入されるギターの音色の心地よさ。決して声を邪魔せず、むしろ読む者の気持ちに寄り添いながら奏でる弦の響きはさすがだ。下地勇・加藤登紀子・BEGINなどの実力派ミュージシャンのバックを務めた実力がこれだ。この日行った学生の発表に一箇所だけ下舘さんのギターを即興で入れてもらった。弦が入るだけで、ここまで声は引き立つのか。学生にとっても贅沢で貴重な体験であっただろう。
文学を読むということは、人生に意味を与えること。
ファンタジーの世界にはとりわけ手垢にまみれていない生き方がある。
せめて教室でも、経済最優先や教訓の枠の外で文学が読めるようにしたい。
講義終了後のキャンパスを春口さんと歩きながら語り合った。
今までの1年半で共有してきたことが今日の講義で自然に融合した、と。
春口さんのテーマ「よりよく生きるための発信」。
「物語の世界が自分の中に見える」を実感すること。
お互い立場は違うが、こんなことを目指しているのだろう。
その後、春口さん・下舘さんたちは、再び東北・石巻に向けて声を届けに出発した。
経済ばかりを唱える人々が忘れてしまっているところ。
そこに人が豊かな弦の響きに乗せて声を届ける。
それを聞く人がいる。
人と人との声は響き合う。
生きる意味がそこにある。
あらためて、一人一人が豊かに生きるとは何かを考えさせられた。
だから年齢を問わず「読み聞かせ」は素晴らしい!
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