fc2ブログ

「中原中也と若山牧水ー愛をめぐって」講演と公開対談

2013-06-03
「白鳥はかなしからずや空の青海のあをにも染まずただよふ」
「幾山河こえさりゆかば寂しさのはてなむ国ぞけふも旅ゆく」
教科書教材としても著名な短歌。
平易にして奥深い世界を三十一文字に込める。
若山牧水没後85年。
中原中也の会研究集会が、牧水生誕の地・宮崎県日向市で開催された。これを知ったのは恥ずかしながら31日金曜日、「宮崎日日新聞」コラム「くろしお」を朝一番の授業で学生たちとともに読んだ時のことだ。抑えきれない欲求に突き動かされて休日の早朝から日向に向けてハンドルを握った。会場は予想以上の大盛況で、多くの方が標記の講演・対談を熱く受け止めた。

「短歌絶叫」で知られる歌人・福島泰樹氏による講演「青春のやうに悲しかったー中也と文夫、その友情の軌跡」。日向出身の比較的知られていない詩人・高森文夫と中也との交友関係をテーマに、ユニークな語り口による弁舌が冴えた。中也に後押しされるように東大に入学した文夫であるが、当時の月謝15円が懐にあると中也に悟られると、旅に出ようと誘われて1週間ほどでそれを使い果たす。一見、中也に振り回されたような文夫の青春時代であるが、物静かな文夫の詩心を最大限に刺激したのが中也であったという。後に中也は文夫の出生地・日向は東郷村を数回訪れている。そんな折の作「立つてゐるのは材木ですぢゃろ、 野中の、野中の、製材所の脇。 立つてゐるのは空の下によ、立つてゐるのは材木ですぢゃろう。」といった詩の響きが福島によって語り部のように音声化される。もちろん講演のクライマックスは「短歌絶叫」で締め括られた。

福島氏のユニークな語り。どこか昭和の香りを残すように、聴衆の心に飛び込んで来る。「朗読は押し付けになってはいけない。」という(教育上の)立場を比較的重視していた僕であるが、「朗読は時に浴びせ倒してもいい。」ということを福島氏から学んだ。個の燃え盛る生を表現し主張し訴えて絶叫する。「昭和」は主張していい時代だった。いつから個を”抹殺”するのをよしとする時代になったのだろう。いや僕たちが勝手にそう思い込んでいるのかもしれない。同窓の大先輩である福島氏からは今後も多くを学びたいという気持ちが高まった。



次に、伊藤一彦氏・佐々木幹郎氏による対談「中也と牧水ー日本人にとっての故郷」が続く。中也と牧水の生育環境などを紹介し比較しながら、大正・昭和期の韻文史に評語を加える丁寧な解説は実に明解であった。この時期には「地方で文学に目覚めた人が近代文学を作る」という図式があり、また「韻文から散文へ」と大きく傾斜してくる時代だという。中也は明治40年生まれであるが、「短歌をやる最後の世代であり通過儀礼のように短歌を書いた。」のだとも。「叫びたい心・現実拒否」が少年に自ずと三十一文字の韻律上に言葉を配させたのだろう。医師の家に生まれる。「文学」以外からあまり収入を得ようとしない生活態度。燃え盛るような熱い恋愛の末の破綻などの中也と牧水の共通点の指摘が的確で興味深い。そして小欄冒頭に掲げた牧水の名歌「白鳥はかなしからずや」を「本歌取り」するかのような中也の作「夏の夜の博覧会はかなしからずや」の指摘。厳密な影響関係を検証する作業以上に、その韻律性における作品への嵌め込み方という構図に韻文たる魅力の真髄があるように思えた。その上で、「中也の詩は歌(短歌)であり、中也風な文語がある。」というのも面白い。その前提として、牧水の短歌表現を「注釈なしで読める新しい日本語表現」と評した伊藤氏の指摘は至言であった。

意味以上に「韻律の魅力」がある。
漢語を少なく和語の魅力を最大限に活用した表現。
これもまた中也と牧水の共通した魅力のようだ。


まさに「朗読」の素材としてたまらない二人の詩歌に出逢ってしまった。
冒頭に記した「宮崎日日新聞・くろしお(5月31日付)」では、「国語教育や文学史の上では傍流な・・・」と中也と牧水を評していた。だが果たしてそうだろうか?もし世間一般で、この二人の詩歌に対する評価が「傍流」とされているとすれば、僕たち国語教育に関わる人間の怠慢が原因だろう。

郷土の歌人・若山牧水。
そして、高森文夫との交友によりこの地に来た中原中也。
この三人のことばの力から深い文学的欲求を全身に浴びる1日となった。

もちろんその力を伝播していただいた
福島泰樹氏・伊藤一彦氏・佐々木幹郎氏にも深い感謝の意を述べておきたい。

抑えきれない欲求は、講演会後の僕にハンドルを握らせ、
20Kmほど山あい深き処にある若山牧水記念文学館に向かわせた。
関連記事
スポンサーサイト



tag :
コメント:












管理者にだけ表示を許可する
トラックバック:
トラックバック URL:

http://inspire2011.blog.fc2.com/tb.php/1296-2a31e213

<< topページへこのページの先頭へ >>