語り合う酒場
2013-06-01
東京在住時には3軒ほどの語り合える場を持っていた。特に3.11震災後は、この存在に幾度となく精神的に助けられた。
小欄の歩みを追えばどんなにか僕にとって大きな存在であったかが窺える。
穏やかに羽根を休めて語り。
家族のように和合し野球を語り。
住む地域から静かに多方面を見つめる。
足繁く行けなくなった今も、僕にとっての精神的拠り所である。
同僚の先生方、または院生・学生たちとも様々なことを語れるようになった。特に親しく目を掛けてくれる先生には、この地での生活の知恵までも伝授いただいている。ゼミの学生からは地域情報を教わり、少し遠出して”グルメツアー”にでも行こうかと話している。教育実習や研究授業参観で市内の小中学校に出向くことも多くなって来た。その学校の校長先生を始め、新たに出会う先生方も増えて来た。確実に新たな人の輪に囲まれているという実感がある。
それでも出身地である東京に居れば、両親はもとより友人・知人をすぐに誘い出して語り合えた。もちろん冒頭に掲げた3軒の店に行けば、心の赴くままに語り合えた。そんな状況からすると、職場の中にしか語り合える場がないことに一抹の淋しさが込み上げることもある。仕事の埒外に自由に語り合える場(人)がいることは、人として大変重要なことであると、この地に来て再認識している。
そんな心境から、週末を控えた金曜日に「語りたい虫」が踊り出す。この地に4年前に来たときから気になっていたお店に出向く。カウンターのみの家庭的なお店は一人で行くのがいい。(だから敢えて店名や場所は人に教えない。僕自身が様々な偶然性の中でこの店を見つけた経緯を最大限に尊重したいからである。悪しからず。)多くの常連さんが「一人」。僕が口コミをしなくても常に満員札止め。その「一人」である常連さんたちとの偶有性に満ちた予想もしない語り合いが実に面白い。大抵が隣同士になれば忌憚なく陽気な会話をしてくれる方々が殆どだ。
もちろんカウンター内にいる割烹着姿の女将さんも、優しい笑顔で語り掛けてくれる。いつしか名前も覚えてくれた。奥で調理するマスターも、ちょこっと顔を覗かせては「もう慣れました?」と温かい笑顔。更にこのお二人に加えてバイトの女性も、忙しく動きながら様々な話題を投げ掛けてくれた。すっかり居心地が良くなり、予定していた時間を大幅に超えてカウンターに居座った。ふと顔を挙げるとその壁に短冊が貼られていた。
「白玉の歯にしみとほる秋の夜の酒は静かに飲むべかりけり 牧水」
この地出身の若山牧水の短歌。
「酒は静かに飲むべかりけり」
騒いで楽しく飲むのも時に悪くはないが、聊かな語りを肴に「酒は静かに」がいい。
冒頭に記した東京のお店でもやはり「静かに」飲んでいた。
”酔う為の酒ではない、語り合える酒でありたい”
どこかの酒蔵のキャッチコピーにも似たようなものがあったっけ・・・。
実に穏やかに週末の時間に移行するひと時であった。
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