翼が揺れるゆえの安全
2013-05-27
今年6回目の同航路フライト。常に座る席からは翼がよく見える。
気流の影響を受けると上下に聊かの揺れが生じる。
初めてフライトした人なら「揺れている」と驚くかもしれない。
だが、僕はその翼の揺れゆえに「安全」を確信する。
飛行機に殆ど乗ったことがなく嫌悪していた母。「耳が気圧で聞こえなくなる」とか、「着陸時に車輪の衝撃がすごい」とか、もちろん「上空で翼が揺れている」などという悪条件を挙げ列ねて乗ることを避けていた。だが、先日試みにフライトしたところ、「新幹線(上越)より揺れない」と言うようになった。その予想以上の安定感に驚いた様子であった。何事も喰わず嫌いはよくないということだろう。
翼が上空で揺れるのは、機体構造上の「遊び」があるということ。強固なばかりで硬直していたら接続部分にばかり負荷が掛かり断裂してしまうであろう。しなやかに揺れが生じる程度であるからこそ、機体は安定して気流にも離着陸時の空気抵抗にも耐えられる。剛強な物は硬直し、柔弱な物は軟熟するのである。
「遊び」は時に「無駄」に見える。だがしかし、その「遊び」こそが生命線になるということも。劇作家の平田オリザ氏の著書『わかりあえないことからーコミュニケーション能力とは何か』(講談社学術新書・2012年10月)に教わった。名俳優が名俳優たる所以は、演技に「無駄」があることだという。認知心理学では「マイクロスリップ」と呼ばれる無駄な動きこそが「人間らしさ」を表現するらしい。何事も効率よく無駄のない”仕事”が要求される現代社会。それはまた、教育の現場がそのように教え込むことの影響を受けているともいう。
スピーチ等でも「冗長率」を操作できる話し手の方が、聴衆を惹き付けるという。確かに要点は整理されているが「記憶に残らない」という話し手に出会ったことはある。落語に代表されるように、主眼とする内容とは関係ないような「無駄」を含んでこそ「記憶に残る」スピーチになるようだ。しかしながら、国語教育の現場では無駄がなく整序され型に嵌ったことばかりが指導されていると平田氏は指摘する。ゆえに「短期的な記憶」ばかりを養成してしまっているとも。僕自身の経験でも、学習者は「試験」を終えればあっさりと記憶から学習内容を”指示”もしないのに、ほぼ完璧に消去している。これからの時代は「長期的な記憶」を養成する教育に転換すべきだというのが平田氏の主張である。
「無駄」な「遊び」こそが肝心。
「翼の揺れ」が多数の生命を支えている。
元来、人の脳は硬直しやすいのかもしれない。
「無駄」を受け入れる許容範囲を常に持っていたい。
コミュニケーションとはそのようなものであろう。
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