「面倒見が良い」とは何か?
2012-12-25
クリスマスイブの夕刻、何気なくTwitterを見ていると「面倒見が良い大学」という評価基準に対する内容が目についた。そしていくつかのリプライを@KONITASeiji @eutonieのお二人と交わすことで、緩やかな意見交換と体験談の交流をすることができた。これは僕自身にとっても大変有意義な時間となったので、小欄にも書き留めておきたい。果たして「面倒見が良い」とは何か?この点を評価基準として諸方面で大学がランキング付けされている。その多くは就職試験や採用試験に合格する為に、手取り足取り指導をするという点を「面倒見が良い」と定義しているようだ。だが、就職の関門突破にあたり指導者が“小手先の技術”において手を貸したところで、果たして本人の為になるのだろうかと甚だ疑問を抱かざるを得ない。Twitter上の交流でも、むしろ「谷底に落として自ら考えさせる」如きことがあってこそ社会に出せるのであるという意見で3人が同意した。
巷間では大学に限らず、中高においても次の進路の関門(入試)にのみ目を向けた指導を綿密にすることが「面倒見が良い」とされているようだ。そして所謂、受験指導にのみ躍起になる学校が増えている傾向がある。入試問題集を教科書代わりにして、まさに“小手先技術”を授業で教え込む。またいかにも“魔法”かの如く明解な解説をするかが“良い授業”と位置づけられる。その結果、入試に関係ないという基準で切り捨てられる科目も出て来る。この現実を鑑みるに、中高教育とは何かと大きな疑問に直面することも多い。
かつて僕が学部・大学院に在籍していた頃は、研究会・ゼミというのは徹底的に叩きのめされる場であった。先生も甚だ厳しかったのと同時に、先輩達が徹底的に研究発表の疑問点を追究し、吊るし上げるが如き状態になったものだ。「なぜここまで根本的に否定されなければならないのか」という気持ちになったこともしばしばであったが、そこが“谷底”なのであった。その厳しさがあったからこそ、学会で研究発表しても十分に耐えられる力が養われた。同時に他者の発表に対しても批評的に質問ができる意識を強く持った。
要するに、「面倒見が良い」の定義は、「厳しい」ということに尽きるだろう。それでこそその後の世界で自ら行動できる力となる。学問でも古典芸能でもそれは同じであるという意見交換に大変共感するTweetが連続した。「芸は盗む」ものであるという点もまた重要だ。例えば論文の書き方でも、師匠のスタイルや先人のものを見た上で、自らの型を造り上げて行く。何も“マニュアル通り”に実行すれば論文を書けるようになるわけではない。そこに自らの思考の錬磨が自ずと要求されることになる。
学部時代の恩師宅に伺って、初めて書庫に通してもらった時は大変嬉しかったのを記憶している。その時、恩師は「ちょっと疲れた」などと行って僕を置いて書庫から退散してしまった。それは、「ここにある本をチェックせよ」というメッセージに他ならなかった。同時に「読んでいない本は貸してあげよう」という意味でもあった。その結果、何冊かの本を借り出して持ち帰り、短期間で必死に読みあさったのも、今は良い思い出である。お借りした本を厳重に梱包して郵送にて返却すると、恩師はその本を大切に扱う僕の姿勢に対して驚くほどに賞讃してくれた。たぶん、「貸した甲斐があった」という気持ちになったのであろう。何度となく「本気で研究する気があるのか」という趣旨のことを言われ、僕の甘さを随所で指摘される厳しさを経てこそ、恩師の愛情に接する機会に到達した思いであった。僕は、“崖を這い上がった”のであった。
そんな恩師との思い出を心の奥底から引き出してくれたTwitterでの交流。
いつしか自分の本棚から恩師の著書を取り出して、改めて感極まった。
それは、「まだまだ甘いぞ」という恩師のことばが降りて来たようでもあった。
僕にとってこの上ない、聖夜のひとときとなったのである。
「師とは死後も自分の中に生き続け、導いてくれる方ですね。
で、その師匠を呑み込んでさらに大きくなることが使命になる。」
@eutonieさんのこんなリプライが心に深く響いた。
少なくとも、教育の場は「サービス業」にあらず。
「面倒見の良い」ことは「厳しい」こと。
と自覚できる教員であることが僕の使命でもある。
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