笹子トンネル崩落の恐怖
2012-12-03
日曜日の朝から衝撃的な速報が流れた。中央自動車道笹子トンネル崩落事故である。トンネル崩落といえば、20年近く前になるだろうか、北海道は余市に近い海沿いのトンネルで岩盤崩落事故があったことを記憶する。その刹那に偶々トンネル内を自動車で走行していて被災した方々の、何ともことばにならない運命を感じたものだった。同時に僕たちは誰しも例外なく、こうした事故に遭う可能性があるということだ。中央自動車道を運転した経験のある方は多いだろう。東京方面から下りの笹子トンネルを抜けると下り坂で視界が開け、まずは自動速度取り締まり装置が気に掛かる(今もあれは存在しているのであろうか。最近、僕はめっきり運転をしない生活になっている)。ブドウの産地として有名な勝沼市が一面に広がり、観光に来たという期待感が一気に高まる。笹子トンネルは、日常を非日常に変換する実に有効な境界域として機能していたといってよいだろう。それがまったく、負の意味での恐怖の“非日常”を生み出してしまった。お亡くなりになった方の、ご冥福を心よりお祈りするばかりである。
今回の事故で崩落したのは、排出ガス換気の為に設置された天井のコンクリート板であるという。岩盤部分の天井とそのコンクリート板の隙間により排気ガスが流れる道が作られる。そのコンクリート板が天井部分に金属部品で取り付けられている。その金属部品が何らかの原因で脱落し、コンクリートの重みに耐えられなくなったということだろう。救助活動が続く中、未だ詳細な原因は明らかにされていないが、一部の報道に拠ればトンネル開通の1977年以後、この金属部品を補修した記録はないという。せいぜい目視による点検程度が行われて、「安全」とされていたそうである。35年間という歳月でこの管理体制で果たしていいものかと考えると、他のトンネルにおいてもこうした金属部品の老朽化が大変懸念される。
高度経済成長期の70年代。様々な建造物が大量に造られ続けた。高層ビル・首都高を始めとする高速道路網・新幹線整備拡充等々、まさに公共事業の投資が甚だしく行われて、“コンクリート”により経済が好転していた。だがあれから40年の月日が経過した。当時造られたものは、今後次々と老朽化し疲弊していく可能性が高い。「安全」とされていたものが、月日とともに疲弊している。その事実に気付いていないのは、人間だけなのかもしれない。よってそれは予告もなく突然、人間を襲う。そんな今の時代に、根本的に思考を転換した社会が望まれなければならない。
更には今回の崩落事故でも感じるのだが、管理運営するのが「中日本高速」という民営会社であるということ。果たして高速道路管理といった公共事業において、民営化による自由競争が行われていることに問題はないのだろうか。確かにサービスエリアの多様な営業拡大等の眼に見える点は、大きく改善した。だが、道路管理は営利的であるよりも、なにより「保守安全が第一」なのではないだろうか。競争によって良いものが生まれて来るのは事実である。だがしかし、競争による切迫感で犠牲になってしまうものがあることを忘れてはならないはずだ。競争原理の導入は、むしろ精密さを長所とする日本社会を崩壊させる危険性を孕んでいることを、僕たちは自覚すべきだ。
折しも、総選挙を目前にして、
僕たちが選ぶ社会への警鐘ともいえる事故ではないだろうか。
誤解がないように言い添えておくが、
それに気付くために、決してこのような犠牲があってはならないのだ。
重ねて、ご冥福を心よりお祈りする。
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