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Al Café Gaia Project 4人朗読会『ピエタ』

2012-11-18
原作は生き物である。常に呼吸し身体を矯めて彷徨し、音を求めて風を呼び、その奥底から新たな生命を噴出して来る。そんなことを感じさせる朗読会に出逢った。浅田次郎原作『ピエタ』、以前に女優・春口あいさん一人による朗読会でその作品を耳に残している。同作品を今回は4人で朗読する、そして声を奥底から支えるギターの旋律。雨の土曜日夕刻、豊かな時間に邂逅した。

開演直後、春口あいさんが先頭に入場してきたという錯覚に陥った。数秒後、あいさん自身があとから入場して来て、その先頭が妹さんのゆめさんであることを悟った。単にこの女優姉妹が似ているというのみならず、一人朗読会の印象のある僕は、あいさんが作品の表情を演じて登場したのかと思ったのだった。そう、ゆめさんは明らかに原作の「友子」になって僕たちの前に登場したのだ。

一転、あいさんの語りで朗読が動き出す。彼女の表現の豊かさは演じる読み方であるから。その表情が原作の醸し出す雰囲気を捉え、“伝道師”かの如く声を届けて来る。まさに“ピエタ像の聖母マリア”の声をイメージできるような、優しき語り手の声であった。国語教育の音声表現を考えたとき、語り手は淡々と無表情で感情の揺れのない、いわば「息苦しい」読み方をよしとする先入観が横行している。学習者が、何ら意欲もなく指名されて頽廃的に〈教室〉で“読まされる”、拷問のような“孤読”がなお一層その「息苦しさ」に拍車をかける。ここでのあいさんの朗読は、語り手も表情豊かに優しき感情を露見しつつ読んでもよいことを、教育現場に突きつけるかのようであった。

『ピエタ』は、「友子が、長年捨てられたという感情を抱いていた再会する母に対して心を開く物語」である。その心開くまでの段階的な心の機微がどれだけ表現できるか。語り手あいさんと友子役のゆめさん、2人の声は時に重なり、時に反響し合いながら、その心の襞を描いて行く。そこに友子の恋人・中国人であるリーさん(キャスト・佐藤潤平さん)の純朴極まりない声が寄り添う。中国語を学んだ経験のある僕は、感情が高まった場面の中国語の台詞にネイティブ感が出せれば、などと原作以上(もちろん原作は“カタカナ書き”であろうから日本語的中国語で表現としてはいいのである)の独りよがりな要求を心に浮かべながらも、次第にその深い愛への志を表現した声に惹かれていた。そして愛情に身を浸して生きて来た友子の母・千代子(キャスト・主藤教子さん)の人生の年輪を感じさせる声の豊かさ。4人が創造するライブ空間で、世界に今ここにしかない『ピエタ』が優しく僕たちの心に映像を呼び出した。

もちろん忘れてはならないのは、バックに響くスペインギター(キャスト・下舘直樹さん)である。表現者の声に干渉せず、されど効果的に空間に放たれる絃の響きは秀逸この上ない。ヨーロッパ的な落ち着きを伴い、静かに燃える人間の愛情を支援するが如く、朗読者の声を引立てる。聴衆が朗読者の声に集中できる“匙加減”は、実に心地がよい。逆説的にもの申すならば、ギターの旋律が心から消えたとき、聴衆は『ピエタ』の勘所に足を取られて、心を陥落させ、母子や男女の愛情の深淵に揺さぶられて涙腺を潤ませるのである。

5人が創造したライブ空間。
演じることと朗読の境目を考える上でも大変参考になった。
強風とやや激しい雨の帰路ではあるが、
豊かで穏やかな満足感が、歩む足を弾ませた。

4人朗読会『ピエタ』
本日:11月18日(日)も13時・17時の2回公演。
西荻窪・アトリエ カノンにて
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