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谷川俊太郎トーク+詩の朗読「意識下から“ぽこっと”生まれることば」

2012-09-26
紀伊國屋サザンセミナーで開催された、詩人・谷川俊太郎さんのトークショーと詩の朗読へ赴いた。自らの半生を語る映像記録DVD(紀伊國屋刊)の発刊記念でもある。また2年前に刊行された『ぼくはこうやって詩を書いてきた 谷川俊太郎詩と人生を語る』(ナナロク社刊)の内容にも通じるトーク。そのテーマは「意識下から“ぽこっと”生まれることば」。「意識下」ということの意味合いと“ぽこっと”という擬音語(擬態語?)を使用したあたりに、深い興味を覚え開演を待った。

谷川さん曰く、詩とは「言語化される以前の状態で意識下にある」のだと。よって何らかの契機で「湧き出てくる」ものであるともいう。それを若い時分はノートに書き綴っていたのだと回想する。電子化が進みPC等で詩を記すようになってからは、推敲が容易になったので最初の段階から詩はかなり変化して行くのだという。その過程は、上書き保存してしまうので形にはならないが、そんな推敲過程にも大きな価値がありそうだ。また、「かっぱ」などの作品で知られる「ことばあそびうた」は「出方が違う」とも。そこには「感情(気持ち)」があるのではなく、「煉瓦を積み上げる」ように自然な工程があるのだという。

前述「ことばあそびうた」などは、「子供の方がすぐに覚える」と体験的に指摘。「大人は意味を考えてしまう」と批判的だ。詩とは「意味+音の力」であると谷川さんはいう。その「音の力」に対しては、幼ければ幼いほど敏感であるということ。そこに「メッセージ性があるわけではない」と言い切る。「喩えば、鳥の群れがある一羽の声で一斉に飛び立つように」また、「詞として読むと何ら感激しないのに歌として歌唱すると感激する」といった感覚が「音の力」であるという。その延長上で、「ことばの力」というものを疑い続け、闘い続けて来たのだという詩人の矜持が顔を覗かせる。

「(詩の)ことばの力」とは、「金・権力・学問とは大きな違いがある」と谷川さんはいう。「シュプレキコールの対極」にあるのが「(詩の)ことばの力」であると。となると「意味」に雁字搦めになった僕たちは、詩を果たして本質的に読めているのかという不安がよぎる。DVDの中で、ある高校生が「詩にどんな気持ちを込めていますか?」という質問をする場面があるが、それに対して「かっぱ」の詩を一気に暗誦し、「これに気持ちがあると思いますか」とやり返す。これが谷川さんの真骨頂である。高校生は、まさに学校教育の中で育っている真っ最中であり、それゆえに「気持ち」を質問する。学校教育の中で詩は「気持ち」を問われるものだということなのだ。確かに、授業・試験で「作者の気持ち」を問うことは国語教育の常套手段。だがしかし、この「意味」を、権威付けし作為的説明を付加することが、詩人の感性からは遥かに貧弱に見えるのだろう。国語教育でいうところの「読解・鑑賞」という理論や授業実践を、今一度根底から見直すべきであるという課題を谷川さんからいただいた思いがした。詩は「教えられない」のである。

「“意味”を無化し、ことばの生きている手触り」を大切にする。「ことばとは他と向き合ってこそ出てくるもの」。その「ナンセンス」なあり方こそ、「ことば」の深淵を見つめることになる。この単純そうにみえて、詩人が生涯を重ねて得て来た奥深い境地。「メッセージはゼロ」と微笑む表情に、「ことば」と格闘してきた年輪が滲み出していた。

それにしても、谷川さんのユニークで優しい語りと、そこに表現されるお人柄には大変感激した。一般的に詩人などといえば、無骨で野放図なイメージばかりが拡大してしまいがちであるが、谷川さんは人として豊かであるということがライブから伝わってくる。80歳を過ぎても、年間40カ所以上の講演・朗読等の催しに一人Tシャツ姿で登場する。そのTシャツに刻まれた「ことばあそびうた」と、その穏やかな笑顔という存在自体が、「意味を無化」した「詩」そのものであるともいえる。それはあの、これ以上ないくらい自然体で自己の詩を朗読する姿に表れている。力まず、訴えるわけでもなく、作為を究極に排除した朗読。その境地に至るのは容易ではないだろう。それこそ、詩を“ぽこっと”生み出す詩人ならではの語りであるということができるだろう。


僕たちは、「意味の呪縛」から解放されなければならない。
「音の力」を信じていくべきなのであろう。

ただ、その隙間には、ことばで説明するには難解な道程があることを
指導者は心得ておくべきなのかもしれない。

「ことばの力」そして「音の力」との格闘。
谷川さんという先達から、多くの恩恵を得られた一夜であった。
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