真っ正面だけを評価してよいか?
2012-09-11
昨日に続き野球の話題。少年期から野球をやると、守備の際には「真っ正面で捕球せよ」と教わるのが一般的であろう。右投げの者が、自分の右側に来る打球を、左手にはめたグラブを反対に返して右側に出すことを、「逆シングル」と呼ぶ。僕自身の経験から、仮にこの取り方をしようとすれば「正面に入っていない」と批判される結果となった。その批判は、もちろん指導者からのものもあれば、「格好付けるな」「生意気だ」という上級生からの感情的なものもあったと記憶する。もちろん、「正面に入る意識」が無ければ守備範囲は広がらず、守備力は向上しない。だが、「逆シングル」が絶対的に“悪”な捕球方法かといえば、そうともいえない。今季からシアトルに在籍している川崎の守備は、たぶん現在の日本プロ野球でいえばかなり上質な部類といえるだろう。しかもそのグラブさばきは実に堅実で、「真っ正面に入る」ことを心懸けた姿勢が観て取れる。では、なぜ川崎はシアトルのチーム内で、控え選手に甘んじていなければならないのだろうか?シアトルの正遊撃手は、打率1割9分台のライアンという打順9番に座る選手である。攻撃や走塁の結果を総合しても、川崎を使った方が可能性も高いのではという疑問を日本人ファンなら抱く。だがしかし、チーム状態からして、若手選手を育てる為のシーズンになっているのは、イチローの移籍で明らかだ。それを差し引いても、このライアンという遊撃手を先発で起用する「理由」があるということを、あるサイトの野球コラムで知った。それは、「得点阻止率」という観点で捉えた、ライアンの守備力であるという。
そんな視点で、ライアンの守備を観察してみる。すると打者ごと、投球のコースごとに、守備位置を大きく変える。ここまで移動するのかと思えるほどの位置取りをしている。(日本的批判の視点で)安易な言い方をすれば「山をはった」守備位置であるのだ。しかし、そこには緻密な計算が無い訳ではなく、ヒット性の当たりを平然とアウトにする守備力の大きな要因となっている。むしろ守備位置が功を奏するので、決して華麗には見えない。普通に何ということもなく守備をこなしている。
ある時、ライアンの右側、つまり三遊間に打球が飛んだ場面を観た。ライアンはやはり三遊間寄りに守備位置をとりつつ、「逆シングル」で捕球し即座に一塁へと送球した。観ていた感覚として、日本人選手なら「正面」に入りそうな位置への打球である。しかし、「逆シングル」の為に捕球時点で送球姿勢に移行しやすく、右側にあるグラブから即座にボールを取り出し、俊敏な送球を実行できる。もちろん一塁はアウト。ライアンに限ったことではないのだが、MLB選手の守備を観ていると、「送球への移行」を潤滑に行うため、「逆シングル」での捕球が多い印象だ。たぶん、遊撃手の三遊間での捕球(二塁手の二遊間でもよい)が、「正面」か「逆シングル」かで統計を取れば、日本とMLB選手の守備への姿勢の違いが浮き彫りになるはずだ。
正攻法で型通りの方法をよしとする日本野球の思考。
それは守備面でも観取することができる。
“正道”を旨とすることへの要求。
ここにも「野球道」たる日本独自の発想が垣間見える気がする。
もちろん、誤解の無いように書き添えておくが、川崎の守備を批判するつもりは毛頭ない。彼の守備は、日本で野球を観て来た僕にとって、実に素晴らしく今のところ遊撃手としては、一番個人的に好感が持てる選手だ。ここで、問題意識を持ったのは、「得点阻止率の高い守備」という統計を重んじ、守備に絶対的な「個性」のある選手を評価するMLB球団の一方針である。「型に嵌らない個性」を尊重する文化的背景。例えば小柄な選手がHR狙いとも思えるフルスイングをしても、結果さえ残せば認められる世界である。
このような野球の日米比較から、
文化の微細な違いを読み取ることが可能なのではないのか。
日本人はもっと自らの思考に自覚的になるべきである。
そんな意味でも、WBCという機会が必要なのではないか。
勝ち負けだけではない、文化比較が観られる大会なのである。
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