「ゴリラ風船」はいずこへ
2012-08-27
「家内安全・商売繁盛〜・・・爆笑、ウッウッウッウッ!!!」「男の子は、ボクシング!」
「女の子は、バレーボール!」
こんなフレーズを、コミカルな表情を作りながらパフォーマンスする「ゴリラ風船(商会)」という縁日の露天があった。必ず周囲には人だかりができて、そのゴリラによく似た中年男性の語りの世界に聞き入った。僕が小学校の頃までは、この時季のお祭りで、このパフォーマンスを見るのが一つの楽しみでもあった。あの「ゴリラ風船」は、いまいずこにいるのだろうか。
久しぶりに日暮里の“お諏訪さま”こと諏訪神社の祭りに両親とともに足を運んだ。昔と変わらず、西日暮里駅上の崖の上にある社から、日暮里駅裏手の路地に至るまで、かなりの距離を縁日の露天が立ち並ぶ。そして老若男女、様々な年代の人々が夕涼みのひとときを楽しんでいる。夜になって大詰めの神輿が「宮元」から出され、現代的視点からするとやや“無謀”とも思えるように、露天が出ている前の狭い路を進む。その掛け声と神輿の揺れ加減。何とも魂が揺さぶられる思いがする。
諏訪神社境内の神楽殿では、「江戸祭りばやし」が奏でられている。昔は、お神楽も奉納されていて(この日も、時間帯によって行われたのかもしれないが)、その妙に幻想的な動きが子供ながら気になった。境内にも所狭しと露天が立ち並ぶが、冒頭に書いた「ゴリラ風船」は、必ずその鳥居から入ってしばらく行った左側、人が周りを囲んでも支障のない位置で、豪快な声を響かせていた。各々の露天で売っているものは昔と大きな違いはないと思うが、風船を一つ売るのに、あれほどの“話芸”を持っているような露天は、もはやない。
今でも、その幼少時の記憶は鮮明だ。極めて「ゴリラ」に似た顔、いや似せた表情。下唇を突き出して、上目遣いで白目を剥く所作は実に印象的だ。「ボクシング」と称して風船をパンンチングする勢いはかなりのもので、その速さと迫力に圧倒された。風船に鉢巻き状に巻き付ける細長い風船を膨らませながら、その端々に噛み付いたりもする。場合によると、本当に噛み切る瞬間があって囲んだ客たちを驚かせる。風船が破裂するというのは、起こってみれば何ということもないが、不意な破裂音に至までの緊張感は格別なものがある。俄な爆発音のスリルを子供ならではに味わっていた気がする。
「ゴリラ風船」はいずこへ。
街に楽しめるパフォーマンスが生きていた。
あの名物露天はもはやないが、
祭りの縁日を見ていて、
変わらないものは変わらないでいい、
などと下町の逞しさに嬉しくもなった。
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