郡読音楽劇「銀河鉄道の夜2012」公演
2012-08-25
「重ねる」とは実に様々な意味がある。まさに「多重」という語彙にもなっているように、複数の要素が複数の状況の中で、接触し刺激し合い反応して何らかの表現として結果となる。「群読」という表現行為は、まさにこの「重ねる」ことの多様さに根本的な存在理由がある。異質なもの同士や時代を超えたもの同士の邂逅。個々の声とテキストとの取り合わせ。そしてまた声のみならず、演じ・舞い・奏で・仕組む・という多元的な要素が、一つの劇的空間を創り出して行く。「重ねる」ことへの意識は、この劇の脚本・演出を担当している能祖将夫氏により、パンフの挨拶文に示されたコンセプトである。桜美林大学プルヌスプロデュース・市民参加企画「銀河鉄道の夜2012」を観た。市民と学生が半分ずつ計130名ほどの応募者からオーディションを経て選ばれた12歳から70歳までの方々が参加する群読音楽劇である。稽古は直前の6日間という短期集中で行われるという。様々な年代の方々が公演を含めた期間を通して生活を「重ねる」ことで、宮沢賢治の世界観を創作的に表現する。
「朗読」と「劇」の違いは何か?常々、朗読発表会を実施すると学生たちと模索するこの境界。どこまで「声」に依存し、テキストを読むことのみで聴衆の想像力に訴えてよりリアルな表現を達成して行くか。そこに「朗読」、またその延長上の「群読」があると基本的には考えている。演じて動くこと・背景に流れる音楽的要素などはあくまで補助手段である。複数の人々が声を重ねるという実に単純な響きに、テキストのことばを再発見する表現者と聴衆の交流の場が「群読」であろう。そしてやはりこの場合にも、ライブ性が何よりも重要な要素になる。
今回の群読音楽劇は、限りなく芝居に近く音楽性にも長けている。主役・ジョバンニとカンパネルラは、舞台上で台本を読む行為はなく全てを“演じ”切る。これは既に僕の考える「群読」の域を超えている。他の出演者は、台本を構える場面もあり、台詞として語る部分もあり、「群読」と「演劇」を往還しながら進行する。終盤で「重ね」られた「タイタニック」の場面では、沈み行く船の中の混乱を描き、出演者が床に伏せる中で台本を見ているのが、象徴的にその二面性を物語っていた。「朗読」と「劇」の違いというのも、実に多重な考え方が可能なのであるとしみじみ見入った。
このようなことを考えている僕からすると、この「群読音楽劇」を観ていて混乱を来すことも多い。「朗読」を“聴こう”として台詞から想像力を働かせていると、出演者はいつしかその場面を、舞台上で演じている。自己の朗読を聴く想像力が、上手く演技と重なれば一つの落し所が発見できるが、その多重性にたじろいでしまう自分を、劇中に何回か発見した。音楽的なリズム感・そして豊かなダンスの表現。こうした要素を融合して行く、多重な鑑賞眼が求められるということであろう。まだまだ、多くの芝居を観て学ばなければならないという自覚を高めた。
それにしても賢治のことばは屈強であり優しい。台本の随所に賢治の詩の一節が「重ね」られていたが、「銀河鉄道の夜」がベースにありながら、その詩のことばが多様な声により跳梁する。その響きは強烈である。賢治の果てしない世界観とは、多様な表現の方法を容易に受け入れる包容力があることを認識した。賢治のことばをもっともっと噛み締めたくなる。
「ほんとうのさいわいはなんだろう?」
ジョバンニの声が響く。
それはまさに、この時代を生きる
僕たちへの問い掛けでもある。
桜美林大学プルヌスホールにて、8月26日(日)まで公演。
(横浜線・淵野辺駅前)
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