忙しい中でも向上の努力ー牧水賞に永田紅さん
2023-11-02
「研究者として非常に忙しい中でも、作歌力を向上させる努力を怠っていない。」
(牧水賞選考委員・伊藤一彦さん講評より)
毎年この時季の楽しみは、若山牧水賞受賞者が選考委員会で決定されることだ。今年も一昨日に記者会見があり、昨日付宮崎日日新聞一面に「牧水賞に永田紅氏(京都)」と報じられた。世界的細胞生物学者であり歌人としても著名な永田和宏さんを父に、2010年に亡くなった歌人・河野裕子さんを母として、「歌人一家(兄・永田淳さんも歌人)」に育った紅さんである。彼女自身も現在は京都大学研究員を経て特任助教であり、細胞生物学の研究者である。日本では高等学校段階の早期から「文系理系」と学びの系統を分けてしまうからか「理系の人に文学は無縁」のような風潮があるが、殊に「作歌」という意味で永田和宏さん・紅さん父娘を考えるにその社会的認識がいかに浅はかだと思わされる。同時に昨今の研究者事情からすると、細分化され過ぎた研究分野の閉鎖性の問題や所属機関での煩雑な仕事量の多さに忙殺されがちな傾向が否めない。冒頭に記した伊藤一彦さんの講評が指摘するように、紅さんの「作歌力向上の努力」は見習うべき点が多いと僕自身も一研究者としてぜひ見習いたい。
さらに佐佐木幸綱さんの講評では「科学者の視点も込めて懐妊を詠んだ歌はこれまでの短歌にはなく、過去の受賞作の中でもユニークだ」と称賛したと、宮崎日日新聞の記事にあった。幸綱先生は日頃から「職業詠」の大切さを説かれることが多いが、それこそが「その人しか詠み得ない歌」だからであろう。短歌そのものが「今ここにあるその人の独自性」を特に近現代では求められるようになったことを考えると、科学者としてその進化する研究に携わる視点からの詠歌は誠に貴重であり今回の受賞の大きな理由として特筆すべきである。受賞歌集名となった「いま二センチ」の歌の視点こそが、宮日新聞記事の見出しにもなった「前例ない独自の感性」を表現する象徴的な一首なのである。今から来年2月の授賞式で紅さんにお逢いするのが大変に楽しみになった。そして研究者だからこその「作歌力を向上させる努力」を学びたい。
宮崎日日新聞掲載受賞作から
「親指と人差し指のあいだにて『いま二センチ』の空気を挟む」
「日の暮れは子供も不安になるものかタソガレーナちゃんと呼びて抱き上ぐ」
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