苦悩は短歌にし包み隠さず
2023-05-29
牧水が歌人として成長に至るための深い苦悩恋愛・故郷の両親・稼ぎ・雑誌編集のことなど
個別の苦悩が多くの人たちの共感を呼ぶことに
若山牧水の物事への心酔の徹底ぶりというのは、見事なばかりである。牧水を研究し知れば知るほど、そのような思いを強くしている。なぜ複雑な事情のある恋人を5年間も追い続けたのか?明らかに恋に身が救われることより、苦悩極まりない時期の方が長い。恋人が東京を去ってから、いつまでも未練がましく彼女のことを思い続けている。そのやり場のない辛さが、今度は自らを陶酔へと導く酒に心酔するようになる。昨日の小欄に記したことだが、「酒樽をかかえて耳のほとりにて音をさせつつをどるあはれさ」「徳利取り振ればかすかに酒が鳴る我が酔ひざめのつらのみにくさ」など酒にまつわり自虐的な歌が第4歌集『路上』には多く見られる。その一因として「君住まずなりしみやこの晩夏の市街(まち)の電車にけふも我が乗る」など恋人への未練が見え隠れする歌も見られる。
だが牧水が歌人として名を遺したのは、苦悩をそのまま放置はしなかったからだろう。あまりに心が追い込まれることから、牧水の身体は自ずから旅に出たのだ。前述した「自虐」の歌がある一方で、旅先で名歌と言われる歌が生まれたのは昨日の小欄に記した。苦悩は苦悩のままに包み隠さず歌に詠む、自らの「あはれさ」を臆さず短歌に表現し公刊される歌集にも入れているからこそ、自己内の摩擦が熱量になって名歌が生み出されるということかもしれない。同様のことを、俵万智さんから感じることもある。6年半の宮崎での交流があったゆえに、僕などはより実感したことなのかもしれない。『サラダ記念日』の頃から素材は様々に展開したが、物事への全肯定とも言える「受け入れ方」は生き方の見本とも思えてくる。きっと、あれほど著名歌人であるゆえの苦悩も少なくないはずだ。先日の「あさイチ」へのTV出演でも語っていた短歌に対して「肩肘張らない」こと、臆さず短歌に表現をすることが俵さんの生きる大きな力なのだと思う。固まって硬直すれば、物はひび割れ壊れやすくなる。苦悩を多く抱え込みながら、どこか純粋さを失わず短歌に表現し続けた牧水を愛す。
果たして苦悩を短歌にしているだろうか?
「肩肘張る」ことで格好をつければ他者には伝わらない
その恋愛生活の深淵が明らかにされてこそ牧水の短歌はさらに愛されるのだ。
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