第27回若山牧水賞授賞式・祝賀会ー奥田亡羊氏『花』
2023-02-22
幅広いお仕事とご経験読者の想像力をどう導き出すか
短歌の進化・攻めの歌集 等々・・・
定例の時期に恒例の会場で、3年ぶりに牧水賞授賞式が挙行された。この3年間は延期や少人数での実施、または時期をズラし別会場での挙行などが続いていた。だがやはり宮崎の季節の風物詩とも言えるこの行事は、この時期に開催されるのが望ましい。今年はさらにWBC熱で観光客も多く宿泊事情もままならない中ではあったが、県外からも多くの方々がこの式典に集まった。受賞者の奥田亡羊さんは、結社を同じくし心の花の同人である。また母校・学部も同じくし以前から親しみ深い受賞者であった。既に10月の決定に際してSNS上でお祝いを述べ、今月10日の歌壇賞授賞式では東京で席をともにした。しかし、この授賞式の場でリアルにお祝いを申し上げるといのが、何にも代え難いものだと「3年ぶり」の感慨を深くする機会であった。
冒頭に記したのは選考委員の先生方の講評の要点である。伊藤先生からは「幅広い仕事とご経験」の作者であることが紹介された。またこれまで多くの受賞者が牧水にあやかって酒呑みであるが、佐佐木幸綱先生は「昨夜は亡羊さんが酒を飲んで驚いた」と語った。さらには、アイディアのある方で短歌二行書きの工夫によって様々な読み手が違って読んでも構わない想像力を導き出す歌であると指摘した。また高野公彦先生は、語彙はやさしいがわかりにくい歌が多いと語り、上句下句の関係性をどう結びつけるか?に短歌の進化があるとも述べた。また栗木京子さんは、テーマ・文体、表記の面で攻めの歌集であると述べ、感情はリアルだが行動があって歌に輪郭があり現場があり包容力があるとも指摘した。これらの講評を受けて亡羊さんご自身は、作品を読んでくれたことへの感謝を述べ、「自分でもわからない」部分があるとも言う。「作品に自己表現はなく、そこに問いがある」という芸術作品の作者の思想も紹介し、「見る人がそこに参加する」ものだとも語った。
授賞式後の祝賀会では、伊藤一彦先生のご指名で僕もスピーチの機会を得た。宮崎日日新聞「牧水の明るさ」に名前入りで研究内容を紹介いただいたことに感謝を述べ、「牧水の朗誦性」に注視したことを受け、亡羊さんご自身の歌にはどんな「声」が描かれているかを語った。
かけていく子どもの声は遠く近く
風にちぎれて耳に咲く花
かと思えば、エロスを感じさせドキリとさせられる身体性に寄り添う次のような歌がある。
ほのぼのと真白きほとを洗いやる父と娘の一日
のおわり
二行書きは「虚構性」、一行書きは「私性」といった「あとがき」の記述が、さらに読者の謎を深めさせる仕掛けになっている。さらには「「花」という言葉とともに多い「石」という言葉。
にんげんの心は退化してゆけよ
石割れば石あたらしくなる
僕のような研究者の「石頭」を割れば「あたらしくなる」ことを教えられるようであった。
概ねこんなことをスピーチとした。
さらに宴席は重ねられ
最後は伊藤一彦先生と久永草太さんらと
ニシタチの夜まで亡羊さんとの語らいは続いた。
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