『なぎさホテル』(伊集院静)の夢
2022-12-11
「関東の海をじっくり見ていなかった」逗子にあったという「なぎさホテル」に滞在し
人生が変わった男の物語
桑田佳祐さんの新曲「なぎさホテル」が耳について離れなくなり、歌詞についてもあれこれ咀嚼している。これはと思って同題の伊集院静さんの小説『なぎさホテル』を読み始めた。ある男が、関東で仕事にも結婚生活にも敗れ故郷の山口に帰ろうとしたが、「関東の海を少し見てから帰るか」と思い立ち逗子へ行き、偶発的な体験から新たな自分に出逢う物語である。夢に敗れた際に「海が見たい」と思うのは、ある意味で物語の定番である。特に僕ら関東で育った人間にとっては、湘南の海がその舞台となるのもお決まりの図式ではある。東京都内に住んでいると、決して湘南が近いわけではない。幼少時は父が車好きであったのも手伝って、江ノ島などに連れて行ってもらった記憶がある。島に渡る橋の手前におでん屋が何軒も連なる一角があって、そこで食べた「ちくわぶ」の味を今でも覚えている。その周辺には射的ができる店などもあり、父が何らかの人形を撃ち落としていた。「大人」になって、特に大学生になって免許を取ると自ら父の車を借り出して湘南へ向かった。自ずと誰も知らない「なぎさ」などを求め、逗子から三浦半島にも足を伸ばすことが多くなった。
湘南・鎌倉の雰囲気は絶対的にいい。小説はそんな環境の中で「物書き」という自らの才能に気づく男の物語でもある。もしその機会がなかったら、「自分自身」の真の「天命」に気付けないかもしれなかった男だ。ちょうど今年の大河ドラマを観ていると、あらためて鎌倉という場所は武人の野望と暗躍の渦巻いた壮絶な場所だと思えてくる。特に和歌好きであった三代将軍・実朝のことを考えるに、若きうちの暗殺による死において何よりもっと和歌が詠みたかっただろうと偲びたくなる。そんな生きた悔恨が、鎌倉には跳梁跋扈しているのであろう。彼の地へ行くと、何か大きな力に動かされるような感覚が昔からある。小説の表現からあれこれ想像を膨らませていたせいか、鎌倉から湘南をひとり歩きする夢をみた。「あの日の海辺」「あの日の店」遡れば雨上がりの山道で転んだ小学校の遠足の記憶もある。一曲の音楽から小説へ、想像の小旅行は実に面白い。
そして僕の海は青島海岸になった
牧水も憧れた「海」への思い
「なぎさホテル」たまらない感覚が僕の胸を打つ
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